ライフ

【書評】狂っていたのは夫か妻か──伝説を覆す評伝文学の傑作

島尾敏雄没後20年忌で挨拶する妻で作家のミホ 共同通信社

【書評】『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』/梯久美子著/新潮社/本体3000円+税

【著者プロフィール】梯久美子(かけはし・くみこ)/1961年熊本県生まれ。北海道大学文学部卒業。『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』(新潮文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞。『愛の顛末 純愛とスキャンダルの文学史』(文藝春秋)など著書多数。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 ノンフィクションという足腰のある手法により文芸評論が到達し得ない深みにまで真実を掘り下げ、著名な作家夫婦を描いた評伝文学の希有なる傑作が誕生した。

 作家島尾敏雄(1917~1986)の代表作『死の棘』(1977)。愛人との情事を記した夫の日記を読んだ妻が、その衝撃で精神に異常を来し、以来狂ったように夫を責め立てる。

 その壮絶な日々を描いた作品で、内容はすべて島尾とその妻でやはり作家だったミホ(1919~2007)の実体験に基づく。本書は夫婦の関係を軸に描いたミホの評伝である。ノンフィクション作家である著者は、島尾とミホの作品を解読するだけでなく、生前のミホや関係者を取材し、ミホの死後に見つかった夫婦の日記、草稿など未発表の膨大な資料を精査した。

『死の棘』は「私小説の極北」(奥野健男)と評価されるなどして数々の文学賞を受賞し、小栗康平が監督した映画もカンヌ映画祭で審査員グランプリを受賞した。そうした過程で、著名な評論家や作家により、作品は「究極の夫婦愛」を描いたもので、ミホは「純粋無垢ゆえに狂気に至った聖女」であると位置づけられるようになった。

 だが、著者はそれは「神話」だとして、丁寧に事実を拾い、神話を解体していく。

関連記事

トピックス

“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
『あんぱん』“豪ちゃん”役の細田佳央太(写真提供/NHK)
『あんぱん』“豪ちゃん”役・細田佳央太が明かす河合優実への絶対的な信頼 「蘭子さんには前を向いて自分の幸せを第一にしてほしい。豪もきっとそう思ったはず」
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン