「ぼくが原作なのに、絵の下書きを見せてもらって号泣しました(笑い)。音楽を絵にするのは難しいと思うんですが、風を感じたり踊りに託したり、見事に表現されています」

「みーちゃん」の家は音楽にあふれている。

「風呂に一緒に入って歌をうたったり、ぼくが仕事をしている机の下で娘が遊んでいたり、というのは、うちの情景そのままです」

 パパの仕事机には譜面が高く高く積み上がっている。指揮者のスケジュールは複雑で、プロジェクトが5つも6つも同時進行するそう。半年先の譜面を勉強しながら、今日、明日の練習や公演のことも考えなければならない。

「わざわざ喫茶店に行って譜面の勉強をすることもあるぐらいで、騒がしいのは気になりません。結婚したとき、譜面の勉強をしながら、ジャズのCDをかけて、テレビでタイガースの野球の試合を見つつ、料理をしている家内としゃべってたら、『頼むから、なにか1つやめて』って言われたことがありましたね(笑い)」

 指揮者は工事現場の現場監督のようなものだと佐渡さんは言う。ガラスをはめる人、鉄筋を取り付ける人がいるように、バイオリンを弾く人、トランペットを吹く人がいる。普段どおり力を発揮してくれればいいが、個性や持ち味が異なり、現場での臨機応変な判断も求められる。

 佐渡さんは、芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターで「スーパーキッズ・オーケストラ」の指導もする。

「コンサートに行きなさい、とは言いませんが、ぼく自身がこれまでに経験した感動とか、こういう感情になった、という話はよくします。同じ体験をしたい、と思った子は演奏会に行くでしょうね。

 今はユーチューブで音楽を聴くことが当たり前になって、音楽との接し方もずいぶん変わった。そんななかで、いいコンサートホールに行って、生の演奏を聴いて空気の振動を感じるということは、これから意味を持ってくるんじゃないかと思います」

■取材・文/佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

※女性セブン2017年1月1日号

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