世界的指揮者である佐渡裕さん原作の絵本『はじめてのオーケストラ』(はたこうしろう・絵)が出版された。
主人公は小学1年生の「みーちゃん」。指揮者のパパから「とっておきのコンサート」に招待される特別な一日が描かれている。佐渡さんにも小学生のお嬢さんがいて、1年生になったとき初めて演奏会を楽しんだ経験が、絵本をつくるきっかけになった。
「ねむくなっちゃったらどうしよう?」
「おなかがぐーってなっちゃったら?」
初めての体験の前は、ワクワクとドキドキが入り混じってパパを質問攻めに。12月の日曜日、新しいドレスとよそいきのコートを着せてもらい、ママと2人でクリスマスの飾りつけが美しい街に出かけていく。この日、演奏されるのは、ベートーヴェンの第九だ。
「子供たちを演奏会に誘うというコンセプトの本をつくりたいな、とずっと思っていたんです。オーケストラや交響曲はこういうもの、という紹介も大事ですけど、何よりコンサートホールに足を運ぶ『縁』をつくりたかった。
出かける前の、ママにドレスを着せてもらううれしさや、会場で係の人に切符を切ってもらうときのドキドキ感。演奏会ってこんな楽しい場所なんだよ、と子供たちや親御さんに伝えたかったですね」(佐渡さん・以下「」内同)
あまり知られてないが、コンサートホールへは小学生以上であれば入場は認められる。佐渡さん自身、母親がプロの声楽家だったこともあって、小さい頃から演奏会に連れて行かれ、小学5年生になると1人で足を運ぶようになった。
「演奏会というのは基本的に大人の場所で、最低限守らなければならないルールはあります。『うちの子はじっとしてるなんて絶対無理』という家もあるでしょうし(笑い)、そのあたりは親の判断が必要だけど、心に残る音楽体験を小さいうちにするのは意味のあることだと思います」
海外で指揮することも多い佐渡さんからすると、日本の劇場はびっくりするぐらい静かだという。
「こないだぼくが聴きに行ったコンサートで、『今日のコンサートは録音するので、咳をする場合はハンカチを口に当ててください』というアナウンスが開演30分前にあったんです。その瞬間から、シーンって(笑い)。日本のお客さんが集中力が高いというのはすごいことですけど、演奏会って本来、それほど堅苦しいものじゃない。海外だと、結構ざわざわしていますよ」
◆指揮者は工事現場の現場監督のようなもの
「みーちゃん」が初めて足を踏み入れた広いホールの内側は、華やかな空気に包まれている。それを目にしたときの驚きや、何より、次第に形を変えていく音楽に心をとらえられる喜びが、いきいきと描かれている。