ライフ

牡蠣とノロウイルス 浄化が「きわめて困難」な理由

牡蠣について正しい知識を(写真:アフロ)

 宮城県漁協の牡蠣からノロウイルスが発見され、出荷停止になった。だが牡蠣とノロウイルスの関係について正しい知識を持っているだろうか。牡蠣料理をより楽しむために、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 ノロウイルスが猛威を振るっている。宮城県では牡蠣が水揚げされる全海域でノロウイルスが検出され、宮城県漁協は25日までの牡蠣の出荷休止を決定した。しかも、今シーズン猛威を振るっているノロウイルスは遺伝子の変異によって、過去に感染し、免疫を獲得した人でさえも感染しやすくなっている可能性があるという。

 食用牡蠣には大別すると生食用と加熱用の2種類がある。このふたつを分かつのは鮮度ではない。採取後、滅菌洗浄の工程を経るかどうかという違いもあるが、生食用と加熱用の最大の違いは採取海域である。生食用の牡蠣に関しては採取海域表示が義務づけられていて、基本的には異なる海域で採取された牡蠣を混ぜての販売はNG。国内産に限り「やむを得ず混合する場合」が認められているが、その場合でも「すべての採取海域の名称を表示する」ことが義務づけられている。
    
 生食用の牡蠣を生産する海域は、比較的沖合が多い。というのも、河口近くの海域は、山や河川から流れ出る生活排水などの汚染リスクが高いからだ。もっとも、河口近くはプランクトンなど牡蠣にとっての栄養分も豊富。つまり味が乗りやすい生育環境ということでもある。つまり河口付近は汚染されやすいが、味のノリがいい。沖合になると汚染のリスクは少ないが、傾向として味は淡白になりやすい。

 一般に「ノロウイルスは、牡蠣が感染源」と思われているが、実はノロウイルスが感染するのは人のみで、増殖できるのも人の腸のみ。

 なのに、なぜ牡蠣で当たるのか。その理由は牡蠣の生態にある。牡蠣は体内に海水を通すことで、プランクトンなどを取り込んで成長する。ときにその海水量は、一日に300リットルにもなると言われ、海水のフィルターのような機能がある。このとき栄養だけでなくウイルスなども体内に蓄積してしまうのだ。

 起きていることの流れとしては「人間の腸でノロウイルスが増殖」→「人間の排泄物が下水処理場に送られ、濃縮される」→「河川から海に流れ出て、二枚貝に取り込まれて濃縮される」→「人が食べて腸で増殖する」(振り出しに戻る)。

 つまり人間が増やしたノロウイルスが、河川を通じて海に流れ出て、牡蠣が海水をろ過する際に吸着してしまう。以前は、いったんノロウイルスが牡蠣に吸着されたとしても「時間をかければ浄化は可能」と言われていたが、現在では完全に除去するのは「きわめて困難」という見方が大勢を占めているという。

 厚生労働省は、ノロウイルスの感染性を失わせるのに85~90℃、90秒以上の加熱を推奨している。そして一度発症すると症状がおさまっても、1~2週間ほど便から排出される。その期間は衛生管理の徹底が必要になる。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン