だが、岡野の営業スタイルが板についてきたのは、ここ最近のことだ。仕事着がユニフォームからスーツに替わったばかりの頃は、自由奔放な野人のイメージそのままに、営業先から心ない言葉も浴びせられた。〈岡野さんって、あいさつできるんですね〉〈チームは弱いし、どうせすぐ辞めちゃうんでしょ?〉──そんな屈辱もバネに岡野は笑い飛ばしてきた。
「もともとクヨクヨしない性格なんですが、逆境の時こそ絶対に人のせいや環境のせいにして諦めたくない。何とかなるでしょと前向きに考えて、イヤな事があっても、たばこを吸ってお酒を飲んで一晩で発散するようにしています。
選手時代には不遇な目にもたくさん遭ってきましたからね。だから、弱い人に対する思いやりも忘れたくない。疲れていたり落ち込んでいたりする選手やスタッフを見たら、わざとちょっかいを出して、笑いで場を盛り上げてしまうんです」
実は、酒やたばこは現役時代から欠かせない岡野の息抜き法であり、大事なコミュニケーションツールでもあった。
かつてはチームメイトと深酒をして羽目を外すこともあったと打ち明けるが、「いまは組織を背負っている責任感からか、どんなに遅くまで飲んでも翌日の営業はシャキッとしている」(SC鳥取の営業担当者)という。
浦和レッズ時代からチームメイトだったガイナーレ強化部長の吉野智行も、「浦和時代の岡さんは本当に朝が弱くて、どんなに叩き起こしても起きなかったのに……。いま、朝から営業に出掛けていく姿を見ると、頭が下がります」と、GM就任以降の岡野氏の変身ぶりに舌を巻く。
その反面、岡野自身はこんな寂しさも口にする。
「最近は選手もスポンサーも酒やたばこをやらない人が増えましたし、あれは健康に良くないとか、これは他人に迷惑がかかる、なんて寄ってたかって規制される事が多いので、つまらない世の中になりましたよね。今じゃ『除夜の鐘』もうるさいから禁止するおかしな時代です。
自分の生き様や自己主張を隠して、みなが同じことを言えば恐くないという風潮が広がっていけば、他人とのコミュニケーションはますます取りにくくなりますし、よけいにストレスが溜まってしまいますよね」
岡野が鳥取に移住してきた7年前には、こんなことがあった。同じマンションの住民は誰もあいさつすら交わそうとせず、ギスギスした雰囲気が漂っていた。そこで、岡野が積極的に住民との会話を心掛けたところ、いつしかマンション内にコミュニティーができ、1階ロビーに〈住民皆でガイナーレを応援しましょう!〉という掲示が貼られるまでになったという。
「人には生活環境の違いや立場の違いもあるだろうけど、誰にでも強みと弱みがあって、それをとことん理解し合えなければ同じ方向には進めませんよ。
だから、ウチのクラブでも立場は抜きにして、『オレはこれとこれをやるけど、何かあったら助けてよ』と腹を割って話せる社内風土をつくっています。サラリーマンでも上司が自分をさらけ出すって意外に難しいんじゃないですか? うまく機能している組織はそういう人間関係ができているんだと思います」
サッカーのみならず、人生も裏表なく常に体当たりでぶつかってきたからこそ心得た「岡野流マネジメント術」といえるだろう。