最近の投手が投げるフォークは、指をしっかり開いて挟んでから抜く、という基本が徹底されていないので球が回転しています。上手にフォークを投げるには指の長さと指の開きが必要ですが、多くの投手はトレーニング不足で指が開かない。大魔神・佐々木主浩の現役時代にも投げ方を教えたけど、「マスターするのは難しい」とこぼしていました。
僕以外に本物のフォークを投げたのは、村山実や村田兆治などほんの数人です。だから他の投手には気軽にフォークボーラーと名乗ってもらいたくないですね。
僕は「フォークボールの神様」と崇められますが、実は勝負どころでしか使わない大切な切り札で、1試合に5~6球も投げませんでした。主に巨人の川上哲治さんを打ち取るために投げていました。打者のバットに当たった記憶があるのは1回だけです。
投球で大切にしていたのはコントロールです。打者の弱点を丁寧につけばスピードがなくても抑えられる。現役では中日の吉見一起に注目しています。ダルビッシュや田中将大より球威は劣るが、他の投手にないコントロールで打者を牛耳っている。
こうしてこの歳になっても野球の話が存分にできるのはありがたいこと。昨年12月に亡くなった荒川博君(元巨人打撃コーチ、享年86)もそうだけど、悲報を聞くのはみんな後輩たちで寂しいことです。球界の先輩たちは70歳の前半で亡くなることが多いですからね。
球界のイベントやOB会に出席しても、「昔はこうだったなぁ」と話せる相手がいません(苦笑)。プロで活躍すると心臓に負担がかかるから、僕も寿命は短いだろうと覚悟していた。実際に89歳の時に心臓の冠動脈が詰まり、カテーテルで治療しました。今は元気で、出された食事も全部食べますよ。
長く生きているといろんなことがある。日本ハムの大谷翔平君のような突拍子もないすごい選手が出てきて、テレビで見て楽しんでいます。彼の変化球は超一流。もっと腕の振りを遅くして、打者の手元で伸びる速球が投げられるようになれば、誰も大谷君を打てなくなりますよ。
●すぎした・しげる/東京市神田区(現・東京都千代田区)生まれ。1949年に明治大学卒業、中日に入団。1954年には32勝をあげ、通算215勝123敗。中日と阪神で監督を務める。1985年に野球殿堂入り。
※週刊ポスト2017年1月13・20日号