ライフ

【書評】トランプ勝利、建前に疲れ本音解放した米国の今後

書評『メイキング・オブ・アメリカ 格差社会アメリカの成り立ち』

【書評】『メイキング・オブ・アメリカ 格差社会アメリカの成り立ち』/阿部珠理・著/彩流社/2200円+税

【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)

 アメリカ先住民研究者の著者による「格差社会アメリカ」の通史である。〈「自由の国」として出発したアメリカは、その最初より、理念と現実の甚だしい乖離を内包していた。その乖離こそが「アメリカの矛盾」を際立たせるものだった〉と指摘する著者は、平明な語り口で、不平等と格差に満ちたアメリカ社会の始原と、その構図が今日に続いていることを様々な視点とエピソードで明らかにしていく。

 アメリカ先住民の多大な受難を礎にした建国、そしてアメリカ源流とされるピューリタンは、インディアンの部族を「異教徒の悪魔」とみなすような不寛容な面を持っていた。さらには十八世紀末、人口の五分の一に迫った黒人奴隷に対する過酷な処遇……。

 やがて変容を遂げつつ移民国家が形成されていくが、アメリカの幸福と豊かさはインディアンや黒人の不幸によって購われたものだったのだ。そうした社会の中で莫大な富を築く大富豪が現れる。

〈アメリカほど、「他人の不幸は我が身の幸福」の構図を、短期間でかつ大規模に見せつけた国は少ない〉と、著者は言う。その歴史をたどっていけば、アメリカのどの時代にも格差は存在しており、例外的なのは中産階級が増えた一九六〇年代のみなのだ。それでも、努力さえすればすべての人に成功のチャンスはあるというアメリカン・ドリームは生き続けてきたはずだった。

 人種差別や性差別発言を繰り返してきたトランプが米大統領選に勝利したのは、政治的に正しいとされる発言やふるまいといった「建前」に疲れ切り、「本音」を解放したからだといわれる。自由や平等といった理想すら手放したくなるほどの格差が生じているのだが、いたたまれないのは、強者対弱者の構図ではなく、弱者同士の分裂になっていることだ。

 本音をさらけ出したあと、アメリカはどうなるのか。建前と本音、理念と現実の乖離を埋めるべく努力してきたことも、この国の歴史だと信じたいのだが。

※週刊ポスト2017年1月27日号

関連記事

トピックス

詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
【伊東市・田久保市長が学歴詐称疑惑に “抗戦のかまえ” 】〈お遊びで卒業証書を作ってやった〉新たな告発を受け「除籍に関する事項を正式に調べる」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
《不動産投資会社レーサム元会長・注目の裁判始まる》違法薬物使用は「大きなストレスで…」と反省も女性に対する不同意性交致傷容疑は「やっていない」
NEWSポストセブン
女優・福田沙紀さんにデビューから現在のワークスタイルについてインタビュー
《いじめっ子役演じてブログに“私”を責める書き込み》女優・福田沙紀が明かしたトラウマ、誹謗中傷に強がった過去も「16歳の私は受け止められなかった」
NEWSポストセブン
告示日前、安野貴博氏(左)と峰島侑也氏(右)が新宿駅前で実施した街頭演説(2025年6月写真撮影:小川裕夫)
《たった一言で会場の空気を一変》「チームみらい」の躍進を支えた安野貴博氏の妻 演説会では会場後方から急にマイクを握り「チームみらいの欠点は…」
NEWSポストセブン
中国の人気芸能人、張芸洋被告の死刑が執行された(weibo/baidu)
《中国の人気芸能人(34)の死刑が執行されていた》16歳の恋人を殺害…7か月後に死刑が判明するも出演映画が公開されていた 「ダブルスタンダードでは?」の声も
NEWSポストセブン
13日目に会場を訪れた大村さん
名古屋場所の溜席に93歳、大村崑さんが再び 大の里の苦戦に「気の毒なのは懸賞金の数」と目の前の光景を語る 土俵下まで突き飛ばされた新横綱がすぐ側に迫る一幕も
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(右・時事通信フォト)
「言いふらしている方は1人、見当がついています」田久保真紀氏が語った証書問題「チラ見せとは思わない」 再選挙にも意欲《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
「結婚前から領収書に同じマンション名が…」「今でいう匂わせ」参政党・さや氏と年上音楽家夫の“蜜月”と “熱烈プロデュース”《地元ライブハウス関係者が証言》
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(共同通信/HPより)
《伊東市・田久保市長が独占告白1時間》「金庫で厳重保管。記録も写メもない」「ただのゴシップネタ」本人が語る“卒業証書”提出拒否の理由
NEWSポストセブン
7月6~13日にモンゴルを訪問された天皇皇后両陛下(時事通信フォト)
《国会議員がそこに立っちゃダメだろ》天皇皇后両陛下「モンゴルご訪問」渦中に河野太郎氏があり得ない行動を連発 雅子さまに向けてフラッシュライトも
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、経世論研究所の三橋貴明所長(時事通信フォト)
参政党・さや氏が“メガネ”でアピールする経済評論家への“信頼”「さやさんは見目麗しいけど、頭の中が『三橋貴明』だからね!」《三橋氏は抗議デモ女性に体当たりも》
NEWSポストセブン
かりゆしウェアをお召しになる愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《那須ご静養で再び》愛子さま、ブルーのかりゆしワンピースで見せた透明感 沖縄でお召しになった時との共通点 
NEWSポストセブン