国際情報

元海自小隊長 自衛隊員が最も「死」に近づいた瞬間を語る

尖閣周辺海域で中国漁船が海保巡視船に体当たり(2010年11月) AFLO

 東アジアで米軍のプレゼンスが低下するなか、尖閣諸島周辺で日中が対峙すれば、史上初めて戦闘行為で自衛隊員の血が流れる可能性がある。99年の能登半島沖不審船事件で”戦闘現場”に遭遇し、その体験を『国のために死ねるか』(文春新書)に綴った元海上自衛隊「特別警備隊」先任小隊長の伊藤祐靖氏は、「自衛官に死者が出る」ことの覚悟を国民に問う。

 * * *
 国が「行け」と命じれば自衛隊は出動する。尖閣諸島に中国の武力組織が上陸しても、自衛隊の能力をもってすれば奪還はたやすい。だが、軍事では作戦の難易度と安全性は別の話であり、自衛隊員が命を落とすことは十分に考えられる。

 現場の隊員は、「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つ」という防衛省設立の目的に合致したミッションを与えられれば、いつでも国家のため死地に赴く。彼らは危険な任務を前提に、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め」る『服務の宣誓』をして入隊し、国民の税金から俸給を頂く身分であるからだ。

 実際に、死者が出てもおかしくない状況を私は体験した。護衛艦「みょうこう」の航海長だった1999年、能登半島沖に日本人を拉致した疑いのある不審船を発見し、追跡した時のことだ。自衛隊史上初めて「海上警備行動」が発令され、警告射撃で逃げる船を停船させた。

 その時、立入検査のため不審船内に自衛隊員を送り込む必要があった。拉致された日本人がいれば、是が非でも救出しなければならない。相手は特殊訓練を受けた北朝鮮の工作員である可能性が高く、戦闘になり命を落とす危険がある。

 当時はまだ、海軍の仕事は船の沈め合いだという認識があり、武器による抵抗が予想される船舶を立入検査するという発想は出てきたばかりだった。そのため、我々は防弾チョッキもなかった。それでも隊員たちは、腹を決めて粛々と準備を始めた。

 結局、不審船は再び動き出し、猛スピードで北朝鮮の領海へ逃げ込んだため、実際に彼らを送り込むことはなかったが、自衛隊員が最も「死」に近づいた瞬間だった。緊迫感を増す日本周辺の安全保障環境において、能登半島沖のような事態は十分起こりうる。(談)

【PROFILE】いとう・すけやす/1964年生まれ。日本体育大学から海上自衛隊へ入隊。「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件を経験。後に海自の特殊部隊「特別警備隊」の創設に関わる。現在は退官し、警備会社のアドバイザーを務めるかたわら、私塾にて現役自衛官の指導にあたる。著書に『国のために死ねるか』(文春新書)。

※SAPIO2017年2月号

関連キーワード

トピックス

中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
スカイツリーが見える猿江恩賜公園は1932年開園。花見の名所として知られ、犬の散歩やウォーキングに訪れる周辺住民も多い(写真提供/イメージマート)
《中国の一部では夏の味覚の高級食材》夜の公園で遭遇したセミの幼虫を大量採取する人たち 条例違反だと伝えると「日本語わからない」「ここは公園、みんなの物」
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
『国宝』に出演する横浜流星(左)と吉沢亮
大ヒット映画『国宝』、劇中の濃密な描写は実在する? 隠し子、名跡継承、借金…もっと面白く楽しむための歌舞伎“元ネタ”事件簿
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン
山本アナ
「一石を投じたな…」参政党の“日本人ファースト”に対するTBS・山本恵里伽アナの発言はなぜ炎上したのか【フィフィ氏が指摘】
NEWSポストセブン
今年の夏ドラマは嵐のメンバーの主演作が揃っている
《嵐の夏がやってきた!》相葉雅紀、櫻井翔、松本潤の主演ドラマがスタート ラストスパートと言わんばかりに精力的に活動する嵐のメンバーたち、後輩との絡みも積極的に
女性セブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン