習近平は昨年7月、幹部の登用について「指導者は決定者であり管理者でもあり、その素質の高低や人を率いる指導の才能は直接、決定した政策や管理効率、さらにその成果にまで影響するのだ」と指摘し、幹部登用に当たり能力を重視し、従来の党員優先を見直す方針を示唆している。

 現行の国家主席の職務は法律の公布や国家幹部の任免、特赦などの公布や戦争状態の宣言など書類上の手続きが主で、その権限は極めて象徴的だが、非党員が実質的な権限をもつ幹部層を形成するようになれば、国家主席の職務も変わってこざるを得ず、実務的な権限の強化が必要になる。

 同筋は「その場合、国家主席を見直し、総統制への移行も論議される可能性が出てくる。そのために、今年秋の19回党大会で最高指導部に習主席の腹心を送り込み、過半数をとることが絶対条件となるだけに、習主席にとって党大会は絶対に負けられない闘いになる」と指摘している。

 ところが、そこに思わぬ伏兵が突如として現れた。それが、次期米大統領に当選したドナルド・トランプである。トランプは蔡英文台湾総統と電話会談を行い、中国の南シナ海での基地建設と為替操作問題を非難した。また、大統領選挙期間中に、中国製品に45%もの輸入関税をかけると明言している。かりに、これが現実になれば、中国の経済成長率が3%程度下振れするとの予測も出ている。

 いまでさえ低調な製造業は大きな影響を受け、中国全土に失業者があふれ、大規模な労働者ストが全国規模に拡大し、習近平指導部の足元を揺るがしかねない。さらに、台湾、南シナ海問題で次期米政権との対決姿勢が強まれば、内政にも波及する。

 習近平は党大会を前に内政に集中したいところだが、対米関係でぎくしゃくすれば、冒頭の不満分子や野心家、陰謀家がうごめき、習近平は政治的に苦境に陥り、妥協を強いられる局面も予想される。

 習近平は今年、これをうまく乗り切って、総統制を打ち出せるのか。あるいはトランプ米政権に翻弄され政治生命の危機にさらされるのか。すでに習近平は8回、腹心の王岐山は5回、暗殺未遂事件に巻き込まれているとの情報もある。こうした最悪の可能性すら否定できない。

●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(いずれも小学館刊)

※SAPIO2017年2月号

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