「それぞれの国で、それぞれの海でとれる魚を手当てし、おいしく食べられるようにすれば、必ずしもみんなが日本から魚を引っぱってこなくてよくなる。日本の魚は守られるし、値段も高くなくなる。江戸前の技法はそれぐらい優れているし、学べばどこでも使えるんです」
店を開いて4ヶ月あまり。いまだ四季を過ごしてないのでわからないところも多いと中澤は言う。
「ハワイの江戸前をつくるまで、やっぱりあと、1、2年はかかると思う。まず、ハワイの海の旬を知ること、魚屋を選定し、魚屋との信頼関係を築くこと。そして、どの魚屋さんがどの魚種に強いかをつかむ。そんなことをやっていたら、あっという間だと思う」
まもなく54歳を迎える中澤は、いまが楽しくて仕方がないのだという。
「いつも新商品を考えているでしょ。何に対してもドキドキした20代に戻った感じがする。魚の旬がすべてわかり、美味しいものをすべて知っちゃって、約束された中でやってきた日本とは違う新鮮さを味わっています」
「すし匠ワイキキ」のカウンター前の大きな冷蔵庫には、中澤が彫り師に頼んで彫ってもらった2枚の手彫りの木版がはめこまれている。右側にハワイの代表的な魚モイの姿。そして左側に江戸前鮨の開祖、華屋与兵衛が小舟に乗って釣りをする姿──。
2枚の木版には、江戸前鮨をハワイの地で花開かせたい、という中澤圭二の強い意志が投影されている。(文中敬称略)
取材・文■一志治夫、撮影■熊谷晃
※週刊ポスト2017年2月3日号