とはいえ、私が見聞する限り、日本の金持ちは資産のやり繰りや相続に悩んでいることが多い。彼らは、日本では最高で45%の所得税と55%の相続税を課せられるため、シンガポールや香港、ニュージーランドなどに移住するケースが少なくない。
しかし、母国を離れた不便や寂しさを感じている人もいるし、相続税対策のために養子縁組をしたり、あえて借金をしたりして節税の工夫を凝らしながら、結局、大半の人が多額の資産を残して亡くなっている。
その一方で、日本は周知の通り、国自体が莫大な借金を抱えている。国と地方の長期債務残高は1000兆円を突破し、GDPの2倍以上に達している。にもかかわらず、政府は毎年、過去最高の予算を組んで借金を増やし続けているため、もはや歳入で借金を返すという普通の方法では、問題を解決することが不可能になっている。
したがって、このまま行けば、いずれ必ず国債暴落が起きる。
そこで、私から新たな問題解決策を提案したい。それは“資産を家族ではなく国家に相続する”というコンセプトで、富裕層から国への「資産寄付制度」を創設するというものだ。いわば「国家救済ファンド」である。
私は日本の景気を良くするため、富裕層に対して「貯めるな使え!」と訴え続けてきたが、個人金融資産1700兆円の大半を持っている高齢者たちは、日本が貧しい時代に育っていて貯蓄奨励の“洗脳”を受けているため、いっこうにお金を使おうとしない。
だから、国内外に大きな資産を保有している富裕層を対象に、亡くなった後で55%の相続税をかけるのではなく、生きているうちに資産の50%を国家に寄付してくれたら残りの資産とその後稼いだ資産には相続税をかけない、という仕組みを作るのだ。すでに2013年末から、国外に5000万円を超す財産を持っている日本人は国外財産調書の申告が義務付けられているので、制度を作ること自体はさほど難しくはないと思う。
それでもし寄付した人がその後、資産を失って食うに困るような事態になったら、通常の2倍とか3倍の年金を保証するといったセーフティネットを設ければよい。そのようにすれば、本人も家族も相続で気をもんだり、疑心暗鬼になったりしなくて済むだろう。
個人金融資産1700兆円の半分となれば850兆円だ。それを日本の借金返済に充てると、国と地方の長期債務残高は約200兆円に圧縮される。GDPに対する比率は約40%となり、ドイツの約75%を大きく下回って財政の“劣等国”から一気に“最優等国”になることができるのだ。
※週刊ポスト2017年2月10日号