2004年、ペンシルバニア大学が実施した「睡眠と身体への影響」に関する興味深い研究がある。被験者を8時間睡眠、6時間睡眠、4時間睡眠、まったく寝ないという4群に分け、2週間で身体にどのような影響があったかを検査したもの。評価は主観的な眠気と、モニター画面に現われる数字を認識し、ボタンを押す反応をみる客観的指標の2つだ。
まったく寝なかった人は主観的眠気がすぐに上昇し、客観的反応は低下する。4時間睡眠と6時間睡眠の群は、眠気をあまり感じなかったが、客観的なデータはまったく寝ない群の2日目と同じくらいに低下していた。
「徹夜のように、急に睡眠が奪われた場合は、強い眠気を感じます。ですが、肥満や加齢が徐々に進行して起こるSASは、慢性の睡眠不足に身体が慣れて脳が眠いと感じなくなる人が多いのです。眠さを感じないから安全というわけではなく、慢性睡眠不足状態ではマイクロスリープといって、直前まで起きていたのに“一瞬寝るという状況が起こります。これが交通事故などに繋がるのです」(谷川教授)
SASは、生活習慣病や事故など社会的問題のリスクとなっている。治療はCPAPという鼻から気道に空気を送るマスクを装着して眠ることで、呼吸障害を治療できる。
家族の大きないびきや会議中の居眠りなどを見つけたら、病院でのSAS検査や自宅でできる簡易なSASスクリーニングの受診を促すことが重要だ。
●取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2017年2月10日号