国際情報

大前研一氏 北方領土交渉で失敗した真の理由とは

真珠湾演説の言葉と安倍政権の行動には矛盾 Reuters/AFLO

 安倍晋三首相は年明け早々、フィリピンやインドネシア、オーストラリアなどを歴訪し、世界での存在感をアピールしている。しかし、大前研一氏は必ずしも安倍首相の外交手腕には満足していない。昨年12月のロシア・プーチン大統領との首脳会談では、「北方領土返還」が期待されたが、その期待は覆された。そんな今、日本はどう進むべきなのか──。大前氏は「日本はまず真の独立国家として生まれ変わることが必要だ」と指摘する。

 * * *
 ロシアのプーチン大統領との北方領土交渉失敗の理由はどこにあるのか。昨年11月、プーチン大統領の訪日に備えて谷内正太郎・国家安全保障局長がモスクワでロシアのパトルシェフ安全保障会議書記と会談した際、パトルシェフ書記が歯舞・色丹の2島を返還することを想定して「米軍基地が置かれることはあり得るのか」と質問したところ、谷内局長が「可能性はある」と答えてロシア側を仰天させたと報じられた。

 その直後のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に合わせて行われた日ロ首脳会談でも、安倍首相は返還後の北方領土に米軍基地が建設される可能性を否定することができなかった。要するに安倍首相は、北方領土が返還されたら日米安保の対象になる、という前提を覆す交渉をアメリカとやる気がないのである。

 ロシアは「日本はアメリカが基地を置きたいという意向を示した場合にそれを否定できるのか」、つまり「日本は真の独立国家なのか」と問うたが、それに対して日本は「そうだ」と答えられなかった。だから、プーチン大統領の訪日では8項目の経済協力推進に合意しただけで、北方領土問題については何も進展しなかったわけだが、これはラブロフ外相がいみじくも言っているように「独立した一流国」になれない日本の側の問題だったのである。

 ちなみに、日本人の7割以上がロシアに対して悪いイメージを持っているという調査結果もあるが、これも日本政府(とりわけ外務省)が生み出した偏見にほかならない。

 こうした事実を重ね合わせると、北方領土交渉が進まなかったことをはじめ、日本を取り巻く国々が日本の思い通りにならない最大の理由は日本側にある、ということがわかるだろう。

※SAPIO2017年3月号

関連記事

トピックス

サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
香港の魔窟・九龍城砦のリアルな実態とは…?
《香港の魔窟・九龍城砦に住んだ日本人》アヘン密売、老いた売春婦、違法賭博…無法地帯の“ヤバい実態”とは「でも医療は充実、“ブラックジャック”がいっぱいいた」
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン