周知のように、現行憲法では天皇の国事行為は内閣の「助言と承認」によって行われる。国事行為に記載されていない公的行為もまたそれに準ずるものとされてきた。天皇誕生日に際しての「おことば」にあったように、この行為が「内閣とも相談しながら」なされたのであるとすれば、内閣は天皇への「助言と承認」を行っていたことになる。
しかし、安倍内閣の「ご意向」表明についての「助言と承認」は憲法に基づくものとはいえない。内閣が助言をして天皇に「ご意向」を発表していただくなどという条項はどこにもないし、そうした解釈の根拠にすべき条項も見当たらない。
したがって、安倍内閣は恐るべきことに、天皇の国事行為あるいは公的行為ではない行為に「助言と承認」を行ってしまったことになる。内閣の責任者は安倍首相だから、今回の「ご意向」に始まる混乱の最終責任は安倍首相にあり、結果的にせよ違憲行為に及んだのは安倍首相本人なのだ。
【Profile】ひがしたに・さとし●1953年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。論壇誌『発言者』編集長などを歴任し、1997年よりフリーのジャーナリストに。『不毛な憲法論議』『預言者 梅悼忠夫』など著書多数
※SAPIO2017年3月号