最初のお客ですか? もちろん覚えています。新人の私は昼前から店で待機して、ベテランのお姉さんから“仕事の流れ”を教えてもらい、「イヤなことを要求されたときは、上手に断ってね」と片目をつぶられて、そうこうしている間に指名が入りました。
46才の会社員のTさんは、待ち合わせ場所からラブホテルまでグングンと歩いていきます。部屋に入って私が緊張して「今日からです。よろしくお願いします」と言うと、「お風呂、お風呂」とさっさと服を脱いで入ってしまいました。
「何やっているんだよ。こっち、こっち」と手招きされ、「はい」と石鹸を手渡されて、「ここ」。自分の股間を指さします。
あまりにあっけらかんとしているので、男の体で流れ作業をしているみたい。このTさんは長いお客さんになってくれました。
目標額の35万円は翌月から達成できました。それが50万円以上になると欲が出て、出勤日を増やし、少しずつ指名客を増やすのはキャバクラと同じ。違うのは、キャバクラの商品は私との“恋愛ごっこ”ですが、デリヘルはそのものずばり“セックス”。本番は禁止ですが、それ以外はすべてします。
この仕事で面倒くさいのは、客のほとんどが最後は本番をしようとすること。「2万円追加で出すから」と交渉する人もいるし、断ると「信じられねぇ」と怒る客、力づくでくる客もいます。「上手に断ってね」とお姉さんが言う意味がよくわかりました。
「ほかの子とチェンジしますか?」と強く言うと、たいがいは黙りますが、こっちも生身です。波長の合う人には「少しくらいならいいかな」と許してしまうんです。正直、そんなことが何度かありましたが、体の疲れ度がまるで違う。
それに1度した客は2度と“ナシ”には戻ってくれません。結局、気まずくなって顧客から外れていきました。
◆裕福な母子に見えてもすべてはデリヘルで稼いだお金
デリヘルは、完全日払いで日に5万円から8万円。10万円近く稼げた日もあります。離婚した年の夏は、2週間の休みをとってアメリカへ。冬は1か月間、子供たちのそばにいました。「どんな仕事をしているんだ?」。子供との受け渡し場所にやってきた元夫のチャンは、心底驚いた顔で私を見ました。
翌年の春は子供たちを日本に呼び寄せました。航空費2人分に加えて滞在費。子供たちと、京都旅行や北海道でのスキーを楽しみました。人目には裕福な母子に見えたかもしれませんが、すべては私がデリヘルで稼いだお金です。