ライフ

【書評】経済部記者が家庭を犠牲にして観察した出世の条件

【書評】『出世の法則 財界・官界のトップから日銀総裁まで』岸宣仁・著/文藝春秋/1200円+税

【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 古き良き時代の新聞記者は、「夜討ち朝駆け」で、財界、官界のトップの懐深くに食い込んできた。1970年代~90年代にかけ、読売新聞経済部記者だった著者も、「ざっと四千日」にわたり「家庭の団欒を邪魔しながら」、スクープをものにしてきたひとりだ。著者のユニークなところは、単なるスクープ記者にとどまることなく、人間観察のメソッドとして取材メモを活用したことだろう。

 深夜、「真っ赤なネグリジェで出てくる夫人」に度肝を抜かれながら、目当ての相手の書斎でウイスキーを飲み、本棚の背表紙を記憶し、奥さんの記者対応だけでなく、子息の挨拶の仕方までを観察──。他人が、うかがい知ることのできないプライバシーを委細漏らさず記録したことで、出世に結びつく条件があることに気づいた。

 元東京電力の數土文夫会長は、「世界の歴史の中で、大変な運命の分かれ道にあって、人と人とが会話するその瞬間を活写」した古典を愛読していた。それは、将来に備え、修羅場を「疑似体験」しておくためだった。

 元野村證券の田淵節也社長は、「態度が横柄で、言葉づかいも」乱暴だったが、意外なほど好奇心が旺盛で、休日は散歩と称した「タウンウォッチング」を欠かさなかった。当時、原宿の街を席巻していた「竹の子族」のエネルギーについて議論を持ちかけられたことがある。「あのエネルギーがどこから来て、どこに向かうか、ちょっと興味があるな」。言外に、もっと「感受性を磨く努力をしろ」と諭す、心遣いを感じたという。

「最も口の堅い人物」として知られていた元大蔵事務次官の山口光秀に食い込んだ時のエピソードは、とりわけ「運と愛嬌」が欠かせないメソッドであることを教えてくれる。根底にあるのは、「人は明るいっていうことが大事」。それを失わなければ、歓迎されることはあっても、忌避されることはない。「千五百枚」を超えるメモには、「傑物」たちが出世競争を勝ち抜いてきた「パターン、いわば『出世の法則』」が書き込まれている。

※週刊ポスト2017年3月3日号

関連記事

トピックス

遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
《スクープ》“連立のキーマン”維新国対委員長の遠藤敬・首相補佐官が「秘書給与ピンハネ」で税金800万円還流疑惑、元秘書が証言
NEWSポストセブン
2018年、女優・木南晴夏と結婚した玉木宏
《ムキムキの腕で支える子育て》第2子誕生の玉木宏、妻・木南晴夏との休日で見せていた「全力パパ」の顔 ママチャリは自らチョイス
NEWSポストセブン
大分県選出衆院議員・岩屋毅前外相(68)
《土葬墓地建設問題》「外国人の排斥運動ではない」前外相・岩屋毅氏が明かす”政府への要望書”が出された背景、地元では「共生していかねば」vs.「土葬はとにかく嫌」で論争
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
《雅子さま、62年の旅日記》「生まれて初めての夏」「海外留学」「スキー場で愛子さまと」「海外公務」「慰霊の旅」…“旅”をキーワードに雅子さまがご覧になった景色をたどる 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
《悠仁さまの周辺に緊張感》筑波大学の研究施設で「砲弾らしきもの」を発見 不審物が見つかった場所は所属サークルの活動エリアの目と鼻の先、問われる大学の警備体制 
女性セブン
清水運転員(21)
「女性特有のギクシャクがない」「肌が綺麗になった」“男社会”に飛び込んだ21歳女性ドライバーが語る大型トラックが「最高の職場」な理由
NEWSポストセブン
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン