国の施策に疑問を呈する流通関係者もいる。
「生産効率を重視した農林水産省が29か月目標だった肥育期間を24~26か月目標に短縮しました。食味のことを考えると、最低でも30か月以上は肥育してほしいんです。また枝肉重量も480kgに上げろとも言いますが、個人的には体重も450kg程度におさまるような血統のほうが好みですし、レストランのシェフからもそういう肉を求められる。大量生産、大量消費ではなく質の向上と多様性の時代だと思うんですが……」
振り返ってみれば、こんな原稿を書いている僕を含め、一連のサシ騒動の流れで絶対的な「正義」を唱えられる人がどれだけいるのだろう。「A5」という表記に惹かれたことのない者、ポジティブな意味で使ったことのない者だけが、その霜降りに石を投げなさいということになりはしないか。
素牛(子牛)の価格は高く、肥育農家の経営も楽ではない。『サシが入る』『増体性のいい』血統が重視され、一定のサイズになれば出荷する。だがそれは「経済性」で回る市場からの要求に従っただけかもしれない。そして市場は消費者を写す鏡である。ある生産者がこんなことを言っていた。
「結局のところ、われわれのところには、市場で売れた価格という形でしか評価が届かない。味への評価が何かの形で得られれば、張り合いもあるんですが……」
精肉店やスーパーを経てでも「おいしかった」という声が生産者に届けば、そして「少し高くとも安全でおいしい肉」を求める声がもっと顕在化すれば、潮目が変わる可能性は十分あるはずだ。
国、自治体、生産者、流通、飲食店、メディア、消費者……。誰の肩にも責任はある。日常で口にするものについて、われわれ消費者自身も見つめ直すときが来たのかもしれない。