「皇嗣に……重大な事故があるときは、皇室会議の議により……皇位継承の順序を変えることができる」
これによって皇嗣は即位しないことになろう。また別に、元最高裁判事で皇室会議の議員も務めた園部逸夫氏は、次のような指摘をしている。
「仮に皇嗣が皇位の継承を拒否するという意思表示を公の場で行った場合が『重大な事故』に当たると解することが可能であれば、皇嗣は自らの意思により皇位を継承しないという選択を行うことが可能になる」(『皇室法概論』)と。
いずれにしても、現在の制度でも即位を辞退することは十分、可能なのだ。にもかかわらず、陛下は「国民のために」ご自身の自由を断念され、厳しい制約を引き受けるご覚悟で即位して下さった。このことについては、ご自身で以下のように述べておられる。
「私は(即位しなければならないという)この運命を受け入れ、象徴としての望ましいあり方を求めていくよう努めています。
したがって、皇位以外の人生や皇位にあっては享受できない自由は望んでいません」(平成6年6月4日)
陛下ご自身のこのような主体的で献身的なご決断なくしては、即位自体もありえなかった。その厳粛な事実に国民は気づくべきだ。
【Profile】たかもり・あきのり●1957年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。日本文化総合研究所代表。國學院大學講師。神道宗教学会理事。「皇室典範に関する有識者会議」のヒアリングに応じる。『天皇「生前退位」の真実』など著書多数。
※SAPIO2017年3月号