昔ほど人間が移動しなくなり、地域に定着した影響も大きい。若者が地元愛でつながる「マイルドヤンキー現象」など、今は各地でゆるい地域共同体が形成され、宗教に人間関係を求める必要がなくなった。
現在、何か悩みを抱える若者が真っ先に頼るのは神ではなくスマホだ。米国の研究では、無宗教者とネット利用者の増加に相関関係があるとし、「グーグルは神の最大の敵」「神殺しの犯人」と言われる。
総じて、これまで宗教が果たしてきた役割が別の手段で代替される時代となり、“宗教でないとできない”ものが消滅しつつある。
これは世界的な潮流だ。経済が発展途上の国では格差などの歪みが広がり、救いを求める人が増加するが、いったん経済成長が止まると信者の増加もストップする。実際、ヨーロッパを中心とした先進国が低成長となる中、キリスト教は衰退の一途をたどり、「最後の牙城」とされる米国でも無宗教者が増えている。
世界の宗教は歴史上最大の危機に直面しているのだ。
宗教消滅の時代においては、日本の社会から「神聖な存在」が失われていく。その最たるものが天皇だ。近代における天皇は、大日本帝国憲法を通してキリスト教の神に匹敵する存在となった。戦後も巡幸などで国民の崇敬の念が高まり、より聖なる存在になった。
その天皇が譲位の意向を示し、平成が終わろうとしているが、次の天皇を含め、皇位継承者はわずか4人しかいない。何らかのアクシデントがあれば、皇室が存続できなくなる。日本人は天皇制の極めて脆弱な基盤を直視して、「ポスト天皇制」を真剣に考えるべきだろう。
●しまだ・ひろみ/1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術センター特任研究員、同客員研究員を歴任。著書多数。近著に『スマホが神になる』(角川新書)、『天皇と憲法』(朝日新書)、『人は死んだらどこに行くのか』(青春新書インテリジェンス)などがある。
※SAPIO2017年3月号