東京都は豊洲新市場の建設に巨額の費用を投じてきた。土地取得費(1859億円)、土壌汚染対策費(860億円)、施設建設費(2744億円)などを合わせた総事業費は5884億円に達する。
そのうちざっと4000億円は借金(企業債の発行)で、もともとの計画では、中央卸売市場会計が持つ約1000億円の貯金と築地市場の跡地を売却して得た資金を返済にあてることになっていた。都の中央卸売市場関係者がいう。
「もし、移転を取りやめて建て替えや大規模改修で現在地に市場を残すというなら、築地を売って得る予定だった資金は入ってこない。そうなると、市場会計の貯金を全部使うとしても豊洲を最低3000億円以上で売却できなければ、借金返済のために都民の税金による補填が必要になってくる」
「高級ホテル並み」のバカ高建設費が批判されているとはいえ、総事業費の半額近い3000億円台なら、アリババだけでなく他の買い手が名乗りをあげる可能性も出てくる。
当の小池氏とアリババの見解を聞いた。都庁の広報担当は「(マー氏から買収の打診があったという)事実はありません」とした上で、豊洲新市場予定地の民間への売却の可能性については、
「築地市場の移転には、食の安全・安心の確保が前提だと考えている。専門家会議の科学的な評価などを踏まえ、移転について総合的に判断していく」
と回答。アリババ日本法人の広報担当は豊洲買収の可能性について「当社としては、なんとも申し上げられない」とするのみだった。
もちろん、豊洲移転をめぐる最終方針が決まっていない段階で、2人が具体的部分まで交渉を詰めたとは考えにくい。
「小池氏やブレーン、都庁の関係部局には、様々なルートから豊洲の利用法について話が来ている。アリババはその候補の一つに名前があがっているということでしょう。
民意に敏感な小池知事は批判の強い豊洲移転は難しくなってきたと考えており、そうした情報から、買い手がつくなら売却という方法もあるか、と前向きに捉えているんじゃないか」(都庁関係者)
最終的には複数の買い手を競わせることでできるだけ豊洲の売値を高くつり上げてみせ、築地市場建て替えが現実的な選択肢になりうると都民に示すことが、小池氏の狙いかも知れない。
※週刊ポスト2017年3月10日号