この1月の国内販売登録車ランキングで、日産の新型「ノート」が1位(1万4113台)、「セレナ」が2位(1万1179台)を獲得。しかも、ノートは2016年11月にも軽自動車を含む全販売車種のランキングで首位を獲得しているが、登録車ランキングで日産車が1位、2位を同時に獲得するのは、1984年9月のサニー、ブルーバード以来、なんと32年ぶりの快挙だった。
とはいえ、国内の新車販売台数は目下ダイハツにも抜かれて5位と、ゴーン政権時代は不振続き。32年ぶりのワンツーフィニッシュが、せめてもの「はなむけ」となったようで、瞬間風速に終わるのかどうかが問われるところだろう。
ただ、これまで「賞味期限切れ」などと揶揄され、幾度となく「退任論」も浮上したにもかかわらず「続投」を続けてきたゴーン社長が、なぜ、このタイミングで決意表明をしたのかが、気になるところだ。
それは、予想外のトランプ米大統領の就任が微妙に影響しているとの見方も強い。ジャーナリストの福田俊之氏がいう。
「最大のリスクは、NAFTA (北米自由貿易)の見直しです。日産はメキシコで年80万台以上を生産し、米国にも多く輸出しており、今後のトランプ政権の通商政策の見直しは、百害あって一利なし。それでも、この間、ゴーン社長は、「動向を注視している」と述べるだけでした。
ツイッターで名指し批判されたトヨタの豊田章男社長とは対照的に、一貫して冷静さを保っていたのがむしろ不気味でしたが、おそらく百戦錬磨のゴーン氏にしても、あのハチャメチャなトランプ氏にはまともに太刀打ちできないと感じたのではないでしょうか。
この先、しばらくトランプ氏に振り回されては、重要な北米市場も危うくなる。自身の晩節を汚さないためにも、潮時と判断したのかもしれません」
また、一時はゴーン氏の生まれ故郷のブラジル大統領になりたいのでは? との憶測も出た。昨年夏のリオ五輪が開催されたときに、聖火ランナーをつめたことからも、大統領就任の待望論が飛び交ったが、本人は、「私の履歴書」で〈政治的関心はない〉と否定したことで、噂は消えた。
ならばゴーン氏は日産社内で代表権のある会長職に残り、今後どのような役割を担うのか。
自身が、〈私は引き続き日産の取締役会長として、またルノー・日産・三菱自動車のアライアンスの枠組みの中で、監督・指導を行っていきます〉とコメントしたように、業績が悪化すれば直接経営責任を問われかねない社長兼CEOにしがみつくよりも、アライアンスのグループを統括するトップリーダーとして、「影響力を保持しながら大所高所から監督・指導する賢い選択をした」(前出・経済誌記者)ことになる。
社長在任17年の長期政権を続けてきたゴーン氏の心が動揺した背景には、昨年12月、傘下に収めて会長にも就いた三菱自動車の存在も無視できない。
燃費不正で経営不振となったとはいえ、三菱自動車を支える三菱グループの「社長会」には、日本経済を支える有力企業29社が加盟している。その圧倒的な「財閥パワー」を目の当たりに見せつけられたのは言うまでもないことだろう。
「三菱自の再建に並々ならぬ意欲を示すのは、執念を燃やし続けている『覇権への野望」を成し遂げる最後の賭けに出たからです」(自動車ジャーナリスト)