では、ゴーン氏が日産の現場を預かる後継社長に指名した西川広人(さいかわ・ひろと)氏とはどのような人物か。
「日産社員の間では有名な寝具チェーンをもじって“ふとん屋さん”と呼ばれているが、本人は『にしかわ』と呼ばれるのを嫌がっている。
昨年5月、日本自動車工業会の会長職に就任した際の記者会見では、副会長として同席したトヨタの豊田社長が『にしかわさん』と読み間違えると、西川氏はスピーチの途中でもすぐに訂正したほどの律儀な性格でもある」(同前)
1977年東大経済学部を卒業後、日産に入社。辻義文社長時代には秘書役をつとめたこともあるが、購買畑が長く、カルロス・ゴーン政権で鍛えられた粘り強い交渉力には定評がある。
「ルノーとのシナジー効果の創出では評価が高い。さらに、三菱自との資本提携でも“黒子”に徹して交渉につとめた」(同前)ほど、ゴーン氏からの信望も厚い。
こうしてみると、日産の社長交代は満を持して行われ、今後の西川体制もまったく不安がないように思えるが、前出の福田氏はこんな指摘をする。
「ゴーン氏が会長に居座っているうちは、従来の路線を踏襲して大きな変化もないでしょうが、問題はゴーン会長が身を引いたあとの体制づくり。トップの『若返り』を見送ったゴーン政権の二の舞にならないよう、西川氏は次の世代を担う若手のリーダーをどこまで育成できるか。新CEOとしての手腕が問われます」
今日の自動車業界は、最新エコカーや自動運転など次世代技術の覇権争いが慌ただしく、他社との協業を含めた素早い経営判断が求められている。その中で、強力なカリスマ性とトップダウン経営が持ち味だったゴーン氏の影響力が薄らいでいく日産自動車が、これからどんな舵取りをしていくのか。大いに注目されるところだ。