「予測される寿命が10年以内の人ががん検診を受けるのはほとんど無意味」
これはまたシビアな指摘だ。
アメリカでは、がん検診そのものに関して、やる意味があるかどうかエビデンスが厳しく問われている。おおむね意味があるといわれているのが子宮頸がん検診である。子宮頸がん検診の受診率は、欧米では80%。それに対して日本では32.7%と低い。早期がんを見つけることができて明らかに死亡率を減らせるのに、検診を皆が受けないのは残念だ。
さらに欧米で科学的根拠ありとされているのは、便潜血反応による大腸がん検診。遺伝子検査やPET検査(陽電子放射断層撮影)よりも効果大なのに、検便なんて古臭いと思われている。
マンモグラフィを使った乳がん検診も有効と言われている。ただし、乳腺が発達していると、がんが映りにくい。日本人女性は、欧米の女性と比べて乳腺密度が高い傾向がある。そのため、日本での乳がん検診ではエコー検査も加える必要がある。
胃がん検診の効果については、欧米では言われていない。が、胃がんが多い日本では死亡率を低下させるデータがでており、胃がん検診は意味があるとされている。
だが、こんなデータもある。
大阪がん予防検診センター(現・大阪がん循環器病予防センター)の調査によると、1996~2002年までに、胃エックス線検査を受けた43万人のなかで、胃がん陽性と診断されたのは10%弱の約4万人だった。このうち、本当にがんが見つかったのは782人で1.9%にとどまった。
つまり、胃エックス線検査を受けて、「がんかもしれない」と言われた人のうち98%はがんではなかったということである。
一方、胃がん検診で異常なしといわれたのに、ほかの理由で検査をして、一年以内に胃がんが見つかった人が57人いたという。胃がん検診をせっかく受けても、想像以上の人数が見過ごされているという可能性があるということだ。
検査というのは決して万能ではなく、この程度のものだということを知っておく必要がある。そのうえで、検査を受けて得られるメリットとデメリットを比較し、メリットのほうが小さいなら、その検査は受けないほうがいいということだ。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。最新刊は『検査なんか嫌いだ』(集英社)。
※週刊ポスト2017年3月17日号