危機感を抱いた渡辺氏は2013年、米国のナイキ・オレゴン・プロジェクトを視察(帯同した教え子の大迫傑は2015年から同プロジェクトに正式に加入しリオ五輪1万mで17位に)。理学療法など最先端のスポーツ科学や設備を総動員した試みに「日本は半世紀以上遅れている」と衝撃を受けたという。
渡辺氏はトラックや室内で選手のスピードを徹底的に磨き、その上でスタミナを加えていく指導法の確立に取り組む。渡辺氏の下には現役高校生最速の遠藤日向(学法石川高3年、4月から住友電工に所属)など若い才能が集まり始めた。
渡辺氏には瀬古氏の“新提案”はどう映るのか。
「箱根にマラソン区間導入ですか? 箱根駅伝主催者の関東学連、道路を管理する国交省や交通規制を担当する警視庁を説得できるなら、大改革で面白いかもしれません。学生もマラソン挑戦の好機になる。でも93年の歴史を経て確立した形式を変えるのは現実的ではないでしょうね」
一方で、マラソン挑戦の重要性を知る渡辺氏は別の提案もつけ加える。
「今、マラソンは失敗すれば叩かれる、疲れるだけの競技だと思われていますが、そうじゃない。経験を積めば良いんです。瀬古さんですら、優勝したのは3度目のマラソンです。ですから箱根駅伝の本番が終わった後に選手には練習の一環でマラソンレースにどんどん出てほしい。楽しく挑戦して30kmで途中棄権しても構わない。より多くの選手にマラソンに挑戦してもらった方がチャンスは広がる」
※週刊ポスト2017年3月17日号