「うつの発症は人によって様々な“引き金”があります。悩みの渦中にいる人が、自分で原因を見極めるのは難しい。しかし、ふとしたきっかけで、その原因が分かれば、“うつから抜ける”ことができるんです」
そう語るのは、漫画家の田中圭一氏だ。(以下「」内は田中氏)。1月に発売したドキュメンタリーコミック『うつヌケ』が、10万部(電子書籍を含む)のベストセラーとなっている。
著者の田中氏自身、10年にわたってうつ状態の生活を続けた経験を持つ。『うつヌケ』では自身の体験を綴るとともに、うつとの上手な付き合い方を見つけた人たちの事例が数多く紹介されている。
田中氏がインタビューを重ね、同書で事例として取り上げた人たちの職業は小説家、編集者、ミュージシャンから外資系OLまで実に多岐にわたる。同書が興味深いのは、うつの原因も抜け方も様々であることが描き出されている点にある。
「私の場合、うつの原因は、季節の変わり目の“激しい気温差”でした。過去に気分が落ち込んだ時期を洗い出してみると、3月、5月、11月に集中していたんです。いずれも日によって気温差が大きい時期ですよね。それに気づくと、気分が沈んだ時も自分の中で“これは気温差のせい”と割り切れるようになった」
田中氏は『うつヌケ』の売れ行きが好調にもかかわらず、最近は気分が落ち込みがちだというが、「8月発売にしていたらもっと嬉しかっただろうなと思っています(笑い)」と、自身の状況を客観視できている。
もちろん、これはあくまで田中氏にとっての“処方箋”である。
「『うつヌケ』の取材で会った人の中には、“両親から愛されていないのでは”という不安や、“仕事がうまくいかないのは自分のせい”と抱え込んでしまう責任感が原因だった人もいました。
印象的だったのは思想家の内田樹さんや小説家の熊谷達也さんのケースで、仕事が一区切りしたタイミングで気分が沈むというんです。『今が頑張り時だ』と思って仕事を頑張りすぎ、後になってその時の歪みがドッと襲ってくる。自分がうつだという自覚を持ちづらい状況なので怖いですね」
多くの当事者に話を聞くことで田中氏は、ふとした瞬間にうつの原因に気付けば、それが救いになるという結論に行き着いたという。
模範解答はないが、答えはどこかにある──そんな救いのある内容だからこそ、広く読まれているようだ。
※週刊ポスト2017年3月17日号