月曜日の朝刊に「我が社の社長辞任」が載っていた。そんなバカな? 金曜日は社内にそんな雰囲気は全く感じなかったのに……。記事には「次の社長は決まっていない」とも書いてある。おいおい、上場企業でそんなことがあるのか!? 妻から「アナタの会社、どうなっちゃうの?」と訊かれても、何が何やら自分も分からない……。
そんな“冗談のような話”が現実に起きた。それも、日本人なら誰もが知る、業界トップの老舗企業で──。
3月6日の日経新聞に載った〈大西社長辞任へ 三越伊勢丹HD〉の見出しは、“当事者”である多くの社員たちにとって寝耳に水だったという。
「経営が芳しくないことはもちろん分かっていたけれど、社長が交替するにしても6月の株主総会のタイミングだと思っていた」
大西洋・社長(61)は辞任報道が出た当日にも丸川珠代・五輪相との会合に予定通りに出席していただけに、一部の経営幹部を除けば「間もなく社長を辞める」と想像した社員は皆無に近かったようだ。百貨店最大手の異例人事が業界、そして財界全体に与えた衝撃も大きい。
「一般的に上場企業のトップ人事は最低でも半年間くらいの“移行準備期間”を経たうえで、株主総会で承認を得るという流れ。6月が株主総会であれば年末から年明けあたりに次期トップが内定し、社内や株主に周知して地ならししていく。それによって引き継ぎによる遅滞や混乱が生じないようにするわけです。
次期社長が未定のまま社長が辞める事態は企業の信用にも関わってくる。取引先から問い合わせが殺到したという報道もありました」(経済誌『経済界』編集局長の関慎夫氏)
ベテラン社員や同社OBの間には「あの事件」を思い起こした人も少なくなかった。1982年に起きた三越事件(※注)で、“三越の天皇”と呼ばれた岡田茂・社長が取締役会で電撃解任された一件である。
【※注:三越の岡田茂社長による愛人・竹久みちへの利益供与などをめぐる特別背任事件。事件発覚後、岡田社長の解任決議案が発議され、取締役会で16対0で可決。社長を解任された】
この時に岡田社長が発した「なぜだ!」という言葉は同年の流行語にもなった。
「今回の解任劇はスキャンダルではなく経営不振が原因とはいえ、“社内政変”という構図は同じ。“お家騒動”が三越の“社風”であるという印象を世間に思い出させてしまった」(ベテラン経済ジャーナリスト)
※週刊ポスト2017年3月24・31日号