その結果を受け、山村センター長はMS患者19人と健常者40人の糞便を採取して、腸内細菌を調べる研究を行なった。腸内細菌は約1000種だが、次世代シークエンサーで解析することで、評価が可能になっている。結果、MS患者では19種類の腸内細菌が健常者に比べ減っていることが判明。そのうち14種がクロストリジウム属細菌で、3種がバクテロイデス属の細菌であることがわかった。
クロストリジウムは、食物繊維を分解し、酢酸や酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を作る働きをする。短鎖脂肪酸は、炎症を抑制する働きをするが、MSではこれらの腸内細菌が減少し、短鎖脂肪酸の産生が減っている。また、別の医療機関の研究ではクロストリジウム細菌は、自己免疫を抑える制御性T細胞の産生に関わっていることも報告されている。
「MS患者の血液を調べると制御性T細胞が減少しています。つまり、クロストリジウム細菌が減って、短鎖脂肪酸の産生や制御性T細胞の産生も減少し、炎症が起こると考えられます。これまでにMS患者100人の糞便調査を続け、19種の腸内細菌が、MSでは減っている確証を得ています」(山村センター長)
腸の粘膜や周囲のリンパ組織には、体内の半分以上のリンパ球が存在しているが、MSモデルのマウスに健康な腸から採取したリンパ球を注射したところ、中枢神経系に集まり、炎症を抑えることもわかっている。近年では自閉症やうつ病、パーキンソン病などでも腸内細菌に異常があるという多数の論文が発表された。食事は人間の栄養摂取のためだけでなく、腸内細菌の栄養を意識することも病気予防や症状改善につながる。
●取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2017年3月24・31日号