相手の感情を煽って冷静さを失わせ、感情が爆発するよう仕向けていく裁判シーンはよくあるが、稲田氏は自分からはまっていった感が強い。感情にのみ込まれ、質問者の意図にまるで気がつかない。自分で何度も「先生も御存じのように…」と口にしながら、弁護士相手に答弁しているという認識がどこかに吹っ飛んでしまったようだ。
ここまで責められているのだから、確実な証拠があるに決まっている、なんでわからないんだろうなぁ? ドラマならみんなそう思うところだ。
さすがに「まずかったのでは…?」と不安を感じたのだろう。断言した後は、胸の前で両手を組むように二の腕をつかみ、席に戻った。この仕草は、見たくないこと聞きたくないことをブロックし、心理的に自分を守ろうとするものだ。また、二の腕をつかむことで、不安な気持ちを落ち着かせようとしたのだ。なんとも自己弁護がヘタな弁護士ではないか。
さて、稲田氏が答弁で断言した理由は「自分の記憶に自信があったから」だ。
稲田氏は、自分が一番正しいという思い込みがとても強いのだろう。そして、人の間違いは正さなければならないという意識が人一倍あるのだと思う。その結果、自分の意見や考えを優先させて判断し、相手の話に耳を貸そうとせず、周りも見えなくなる。いや、周りを見ようとしなくなる。
「確証バイアス」が強いのだろう。確証バイアスとは、人は自分に都合のよい情報や証拠だけを集めて受け入れて保持し、それに反する情報や証拠は受け入れにくく、探そうとしなくなる心理的偏りのことだ。
稲田氏の場合、ここに弁護士という職業的正義感と子供の頃から育まれた保守派思想が重なり、確証バイアスがより強固になっていると考えられる。そのため、反論されたり批判されたりすればするほど、反発が大きくなり攻撃性が強くなる。
また自分の正当性への思い込みが強いと、自身に関することで確認する、裏付けを取るということが難しくなると推測できる。確認や裏付けは、記憶への不安や自分への信頼を否定することにつながりかねないからだ。
国会では謝罪するも、顔を上げると口をすぼめて唇を突き出した。このアヒル口は、稲田氏が時折見せる表情の一つ。相手の言っていることやしていることと意見が違う、異を唱えたいという時に出やすい仕草だ。稲田氏にとっては、謝罪しなければならないことがきっと不本意だったのだろう。
確証バイアスも度が過ぎると、見えているはずのものが見えなくなり、思わぬ失敗に足元をすくわれてしまう。国の防衛にまで、稲田氏の確証バイアスが影響しないことを願うばかりだ。