朴槿恵スキャンダルを機に大混乱が続く韓国では、憲法裁判所が朴大統領の弾劾を有効と判断した。5月中旬の大統領選挙実施が予想される。ジャーナリストの室谷克実氏は、最有力候補と目される最大野党「共に民主党」(以下、民主党)の文在寅・前代表が大統領になれば、慰安婦問題の日韓合意を破棄することは間違いないと見る。問題はそれだけではない。室谷氏が新政権の別の危険性を指摘する。
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悩ましいのは、極左政権により韓国経済がメチャメチャになることだ。民主党は、「不正蓄財財産を国庫で還収する法案」実現をめざす。朴槿恵と崔順実の財産が標的とされるが、これは法律の効力が施行前に遡って適用される韓国お得意の「遡及立法」である。“財閥憎し”が燃え上がる韓国では、この遡及立法が財閥の接収につながる可能性を否定できない。
現在の韓国は経済が落ち込み、失業者が世にあふれ、将来の希望をなくした若者が「ヘル朝鮮」を合い言葉に母国を呪咀する。そんな苦境において一時の感情により財閥を叩けばさらなる危機を迎えるが、極左政権にとって経済の破滅は「統一への近道」でしかない。北朝鮮に呑み込まれた韓国は統一と共に実質的に消滅の一途を辿る。
新政権では財閥叩きとともに、政府系の研究所やNPOなどに潜んでいた「隠れ左翼」が高級公務員に抜擢され、まともな官僚ほどパージされるだろう。最近、金正男が暗殺されたが、韓国の官僚や財閥幹部はそうした“北の危険”と極左政権の圧迫に恐れをなし、「事実上の亡命」(超長期の海外滞在)に出ると考えられる。実際、韓国の保守派ブロガーであるシンシアリー氏は、日本移住を決めた。
日本の一部の野党やリベラル系の新聞は隣国の極左政権の誕生に勢いづき、慰安婦や戦時徴用などで北朝鮮化した韓国と共闘して日本政府を追及するだろう。
日本はこうした挙動にとらわれず、最悪の事態に対する多角的な備えを着々と固める必要がある。
【PROFILE】1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、時事通信社に入社。政治部記者、ソウル特派員などを歴任。退社後、評論活動に入る。近著に『崩韓論』(飛鳥新社)など。
※SAPIO2017年4月号