趙治勲名誉名人による大盤解説(Zenと韓国・朴廷桓棋士の対局)
3日目の井山九段との碁では、序盤でZenは大胆な捨て石を決行した。人間には井山九段が大いに有利にみえたのだが、Zenは違った大局観を持って、それを証明してみせた。
「人間は読みきれない展開は怖いので、その方針を避けてしまいます。AIは怖がらないのでやっていく。その分、少しずつ人間が損を重ねていくようです」と加藤代表は分析した。
結局、それまでの2局であった“ご乱心”は、なぜか井山九段との碁では起こらず、1勝を挙げた。
「あんな石を捨ててもモトが取れるなんて、人間にはわかりません。認識が違う。Zenは大局観が優れています」と、前王座の村川大介八段。瀬戸大樹八段は「人間はZenより正確に打てる部分がある。人間も鍛えればまだまだ強くなれる。そんな人間の進歩の可能性を感じました」。
アルファ碁と絶芸は、Zenのような失速は見られない。
アルファ碁や絶芸が最初からAI、ディープラーニングを採用しているのに対して、Zenは「生い立ち」がパソコンで使える囲碁ソフトだ。Zenにディープラーニングを取り入れているので、「他より試行錯誤が増えます」と加藤代表。
Zenにとっての大局観とは、ビッグデータを統計的に最適化すること。終盤の乱れは、「誤認識」によるもので、学習で安定していくと見ている。
コンピュータ囲碁に詳しい王銘●(=王へんに腕のつくり/おう・めいえん)九段は「Zenは思った以上に強かった。予想以上に、優勢に立った。課題は無限にありますが、アルファ碁と同じではつまらない。みんなが応援できるものを創り出してくれれば」とエールを送った。
取材・文■内藤由起子(囲碁観戦記者)