江頭さんら農家がいくら質の高い牛肉を生産しても、ブランド力の壁に跳ね返される。そこで「JAさが(佐賀県農業協同組合)」はグループを挙げての戦略として、佐賀牛ブランド化の推進協議会を発足。認知度を高めるために、関西でテレビCMを開始したほか、新聞や雑誌でも広告を大々的に展開した。
販路開拓でも前例のない試みを実施した。1988年には5等級の佐賀牛を販売する店を、JAさがが認定する指定店制度をスタート。他の和牛では指定店の認定を得るには高額の入会金や年会費がかかるが、佐賀牛は無料とした。
そうした努力が実を結んだのが2000年の九州・沖縄サミットだった。福岡で開催された蔵相会議の晩餐会で各国閣僚に振る舞われたことで、佐賀牛ブランドは世界的に認知されるようになっていく。
JAさがで佐賀牛の担当を長く務め、“ミスター佐賀牛”とも呼ばれる立野利宗技術参与(69)が言う。
「さらなる販路開拓として、海外市場を目指しました。和牛に関心の高いシンガポールや米国、タイなどの飲食店を中心に佐賀牛を宣伝して回ったり、地元のシェフを現地に派遣し、飲食店やメディア関係者向けの調理デモンストレーションを行ない、佐賀牛の魅力を伝えました。
こうした農家単体では困難な海外での大掛かりなPR活動は、すべてJAが主導しています。佐賀牛は9割がJAを経由して市場に出荷する『系統出荷』。そうしたJAと農家の信頼関係の厚さが成功の背景にあったと思います」
●たけなか・あきひろ/1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退。NHK記者、衆議院議員秘書、『週刊文春』記者などを経てフリーランスに。近著に『沖縄を売った男』(扶桑社刊)など。
※週刊ポスト2017年4月7日号