では、鴻海トップの郭台銘氏は、シャープ社長としての戴氏に何を期待しているのか。それは旧経営陣の無責任経営で疲弊し、組織の体さえなさないシャープをまず“普通の企業”へ整え、そのうえでグローバル企業・鴻海の経営スピードに順応できる会社にすることに他ならない。有り体に言えば、鴻海とシャープの一体化である。
そして次の段階、戴氏の後継社長のもとで、シャープは鴻海グループで果たすべき役割が与えられ、目指すべき企業像が明らかになるだろう。つまり、戴社長は「過渡期」の政権担当者なのである。鴻海と取り引き経験のあるパナソニックの元役員は、こう諭す。
「鴻海の傘下に入れば、黒字化され倒産することもないでしょう。でもいままで持っていた独立性は失われます。それが、鴻海なのです」
私たちが夢みる「日本企業・シャープの再建」と鴻海精密工業のそれとは、けっして同じものではない。
文■立石泰則(ノンフィクション作家):たていし・やすのり/1950年、福岡県生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。週刊誌記者等を経て、1988年に独立。1993年に『覇者の誤算―日米コンピュータ戦争の40年』で講談社ノンフィクション賞受賞。2000年に『魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。『さよなら!僕らのソニー』『パナソニック・ショック』など家電メーカーに関する著書多数。
※週刊ポスト2017年4月7日号