◆喜劇の体を装って人間の有様を描く
それもこれも、人より優位に立たなければ自分を保てない、人間の壊れた本能の仕業だと土田氏は言う。
「どうでもいいことを比べ合ったり、線を引いたりね。もちろんチェーホフの時代から人間はしょうもないんですけど、特にそういう傾向が日本で強くなったのは、GDPが中国に抜かれた頃からだと思うんですよ。
日本は経済大国だという足元がぐらつき、行き場を失くしたコンプレックスが異物排除に向かう。やたら日本を礼賛する番組が増えた頃からイヤな予感はしていましたが、ここまで保守化が、しかも世界規模で進むと、いつ戦争が起きてもおかしくないでしょ?
動物は天敵を嗅ぎ分けるだけだからいいけど、国籍や学歴や容姿といった関係ない尺度まで持ち込んで上下を決めたがる人間のくだらなさが、結局は愚かな差別を生む。築地市場移転問題や籠池問題もそうです。お互い事実はそっちのけで、相手を言い負かすことしか、興味がないんですから!」
するとどうなるか。聞きたい意見だけを聞き、見たいものだけを見る人々は、赤い雲に目もくれぬまま、〈絶滅〉の日を迎える。本書は設定からして3.11後の世界を思わせるが、土田氏は現実と地続きにある閉じた空気をこそ、可視化したかったと言う。