国際情報

北朝鮮の特殊部隊 日本にとっては弾道ミサイルよりも脅威

北朝鮮特殊部隊が日本でテロを起こす可能性も(写真:アフロ)

 北朝鮮を巡る緊張が日増しに高まっている。もしアメリカとの武力衝突が起これば、その影響が日本に及ぶ可能性も十分にある。日本にとっては、もちろん核実験や長距離弾道ミサイルの“暴発”は最大の脅威となるが、4月15日に平壌で行われた軍事パレードで勇ましく行進した「特殊部隊」の存在も不気味だ。

 特別な訓練を受けた北朝鮮の特殊部隊とは、一体どのくらいの強さを持ち、日本が攻め込まれたらどうなるのか──。朝鮮半島問題研究家で近著に『北朝鮮恐るべき特殊機関』がある宮田敦司氏が緊急報告する。

 * * *
 北朝鮮の脅威といわれて、まず頭に浮かぶのは弾道ミサイルだろう。実際に北朝鮮は、日本を攻撃するために200基以上の「ノドン」を持っている。

 しかし「ノドン」の破壊力が非常に限定されている。通常弾頭(高性能爆薬)の弾道ミサイル1発で破壊可能な面積は、最大700平方メートル(バスケットコート1面を有する体育館程度に相当)といわれている。おそらく「ノドン」の破壊力もこの程度だろう。

 だが、「ノドン」の本当の脅威は、いつどこに落下するかわからないということである。

 例えば、1991年の湾岸戦争では、イラクがイスラエルへ通常弾頭の弾道ミサイルによる攻撃を行っている。イスラエルは42日間で18回のミサイル攻撃を受けたが、このうち10回の攻撃では負傷者は出なかった。最終的に直撃による死者は2人、負傷者は226人であった。問題は530人もの人々がヒステリーや精神障害の治療を受けていることだ。

 もちろん物的な被害も決して小さいものではなかった。ミサイルの破片(迎撃ミサイルの破片も含む)などによって6142棟の民家が被害を受けている。一部で火災は起きたがイスラエルの市街地は火の海になることはなかった。同様に、核弾頭を搭載しないかぎり「ノドン」で東京が火の海になることはない。ただ、イスラエルの例に見られるように、たとえ大都市に落下しなくても、一般国民に対する心理的な圧力の大きさは計り知れない。

「ノドン」の破壊力が限定されているとはいえ、日本へのミサイル攻撃、すなわち在日米軍基地への攻撃はアメリカ軍からの報復攻撃を招くことになる。

 そこで投入されるのが、「朝鮮人民軍偵察総局」(以下、偵察総局と表記)である。偵察総局は、国外へ工作員を派遣し、要人暗殺、破壊工作、情報収集、世論工作などの各種工作活動を行なうことを任務としている。

 偵察総局は、2009年に労働党と人民軍に所属する特殊機関を大幅に改編した際に創設された。初代局長には軍強硬派として知られていた金英哲(キム・ヨンチョル)が就任した。偵察総局に対する金正恩の信頼は厚く、2015年6月には偵察総局関係者を集めて「偵察活動家大会」を開催して激励している。

 偵察総局所属の特殊部隊員(以下、偵察兵と表記)は、あらゆる面で最高水準の能力が要求される。偵察兵の能力について、2000年に脱北した元北朝鮮軍大尉(34・当時)は、「偵察兵の訓練は、氷の張った冬の海で遠泳を行うなど、尋常ではない」と証言している。また、アメリカ軍の情報でも、「40キロの装備を背負い、24時間以内に山地50キロを踏破できる」とされている。

 どこの国の軍隊でも特殊部隊の訓練は過酷である。しかし、北朝鮮軍の異常性は安全性が二の次になっていることである。このため、落下傘降下訓練や冬の海での遠泳など、訓練中に死亡する事故が発生している。

 このような訓練を積んだ集団が日本国内へ侵入したらどうなるだろうか?

関連キーワード

関連記事

トピックス

「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
グラドルデビューした渡部ほのさん
【瀬戸環奈と同じサイズ】新人グラドル・渡部ほのが明かすデビュー秘話「承認欲求が強すぎて皆に見られたい」「超英才教育を受けるも音大3か月で中退」
NEWSポストセブン
2人は互いの楽曲や演技に刺激をもらっている
羽生結弦、Mrs. GREEN APPLE大森元貴との深い共鳴 絶対王者に刺さった“孤独に寄り添う歌詞” 互いに楽曲や演技で刺激を受け合う関係に
女性セブン
無名の新人候補ながら、東京選挙区で当選を果たしたさや氏(写真撮影:小川裕夫)
参政党、躍進の原動力は「日本人ファースト」だけじゃなかった 都知事選の石丸旋風と”無名”から当選果たしたさや氏の共通点
NEWSポストセブン
セ界を独走する藤川阪神だが…
《セの貯金は独占状態》藤川阪神「セ独走」でも“日本一”はまだ楽観できない 江本孟紀氏、藤田平氏、広澤克実氏の大物OBが指摘する不安要素
週刊ポスト
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン