時天空は農業の研究のために日本にやってきた(東京農大在学中は『ダイナミックモデルを利用したモンゴル国の人口動態に関する研究』という論文を日本語で執筆している)。卒業後は大学院に進み、モンゴルで教職に就くつもりだった。そんなある日、時天空は在日モンゴル人コミュニティの中でまだ幕下力士だった朝青龍に出会った。そのとき朝青龍は彼に一万円を渡したという。

「恵んでやった」のではない。故国を思う学士の彼を尊敬して、給与のない身でありながら一万円を差し出したのだ。農大・時津風部屋を通しての大先輩である二代目・豊山(長濱)は、学内の夜間警備をして生活費の足しにしていたという。時天空もまた、時給千円でキャンパスの落ち葉掃きのバイトをしていた。モンゴルからの奨学金と合わせて八万五千円が収入のすべてだった。そんなときに無名の朝青龍から手渡された一万円はどれほど重いものだったろう。

 のちに力士からやがて親方となる(日本人になる)道を歩きながらも、故国のためになることを考え続けた。モンゴルにはなかった障害児向けの玩具(フェルトとマジックテープで出来ていて皮むき練習のできる果物おもちゃや、音が出て動物を動かせる立体絵本)の製作・寄贈に携わっていた。

 葬儀は出棺の時をむかえた。遺影を抱えていたのは元小結・白馬である。白馬は時天空の妹と結婚して、時天空の義理の弟になった力士だった。ところが結婚披露宴の直前に八百長問題が持ち上がり現役を引退させられた。めでたい結婚披露宴はそのまま断髪式も兼ねることになってしまったのであるが、うらみは一切口にせず「大好きな日本の文化である相撲の発展に繋がるのなら悔いはない」と明るくほほえんだ突き抜けた男である。現在は京葉道路沿いにモンゴルレストラン「ウランバートル」を経営している。

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