その後の動きは非常にスピーディだった。地中海に展開するアメリカ海軍の駆逐艦「ポーター」と「ロス」の2隻から59発のトマホークが発射されたのは、化学兵器使用疑惑が明らかになってからわずか48時間ほどのこと。
トランプは習近平との夕食会を終えた直後に記者団の前に出てきて、「軍事攻撃を命じた」「シリアでの流血を終わらせ、あらゆる形のテロを終結に導こう」と厳粛な面持ちで語った。
トランプ自身の知恵でこんな鮮やかな行動をできるわけがないことは、本連載の読者ならおわかりだろう。武力を行使したくてうずうずしていた軍が、アサドのサリン使用を奇貨としてトランプに「武力発動」をけしかけたのだ。シリア空爆のわずか8日後に、今度はアフガニスタンで凄まじい破壊力を持つ「爆風爆弾」を投下したのも“軍主導”と見るべきだろう。
オバマ政権の8年間、軍はずっと息苦しい思いをしてきた。オバマは、アサドがシリア国民に化学兵器を使用した際も軍事行動を躊躇した。軍と軍需産業は、オバマの間は利権の蜜を吸うことができなかったのだ。
「決断できないオバマ」は世界を劣化させたが、今のように軍がリーダーシップのない大統領を動かして行動に出ようとするとき、世界はさらなる混沌へと向かうことになる。
歴史がそれを証明している。ヴェトナム戦争だ。軍産複合体の元締めだったCIA長官のアレン・ダレスを中心としてCIAが暴走し、時の大統領が全貌を把握しないまま、アメリカはヴェトナム戦争へとなだれこんでいった。CIAは、次々に軍事顧問団をヴェトナムへ派遣していった。