「ユニクロの柳井さん、ローソンでは新浪さんの目の届かないような現場に行き、業務執行とは別の部分で経営をフォローしてくれる。玉塚さんが大物経営者に好かれるのは、社長というよりもむしろ“ナンバー2”としての適性があるからかもしれません」(前出・松崎氏)
だが、いざ社長に後継指名されれば、企業が長期にわたって発展し続けられる大きな経営戦略を立てる必要がある。玉塚氏はそれをローソン転身前に現ファミリーマート社長の澤田貴司氏と立ち上げた企業の再生支援会社「リヴァンプ」で培った。
「経営はキレイごとばかりではどうにもならない事が多い。数字だけを見て外部からコンサル的に口を出すよりも、現場にどっぷり入り込み、十分に活かしきれていない事業や経営資源を洗い出してうまく活用させる。この基本はどんな畑違いの会社に移っても同じだといっています」(前出・清水氏)
経営方針を的確に内外に知らしめるアピール力の高さも、玉塚氏の真骨頂だ。
「男前のルックス、大柄の体格だけでも存在感はありますが、それ以上にプレゼン能力に優れています。記者会見や決算発表ではいつも自分の言葉で伝え、記者の無茶な質問も喋りのうまさで見事にかわす。時には打ち上げるアドバルーンが大き過ぎることもありましたが、玉塚氏の巧みな話術と成長著しいコンビニ事業ゆえに現実味もありました」(清水氏)
そして、何よりも玉塚氏の最大の武器は、抜群の知名度と豊富な社歴で培った人脈だろう。経済誌『月刊BOSS』の河野圭祐氏は、こんな見方をする。
「玉塚氏が新しく社長になるハーツ社は、東証1部上場企業ですが一般的に広く知られている会社とはいえません。しかし、これからは玉塚氏が表に出てくるだけで社名が報じられることになるでしょうし、その宣伝効果は金額換算にしたら計り知れないほど大きいと思います。
また、いざとなったら玉塚氏には慶応出身の華々しいOB人脈をはじめ、豊富な社歴で繋がった経営者や取引先などとのネットワークを活かして社業に結び付けることもできる。ハーツ社はこうした玉塚氏の“顔”に期待している面はあると思います」
だが、今後は顔だけでなく目に見える結果も残さなければならない。河野氏が続ける。
「ユニクロでは柳井氏との経営方針の齟齬から追われるように辞め、ローソンでも支配力を強めた親会社の三菱商事に見切りをつけられた形で退任することになり、結局、どちらも大きな功績を残したとはいえません。ハーツ社ではいかに業容・業績拡大に貢献できるか注目です」
〈ローソンの次は会社のサイズではなく、その企業が活性化して成長していくような機会に出会えたらいい。“一人リヴァンプ”のような場を見つけたい〉
4月に行われたローソンでの退任会見で、今後の去就を問われこう答えていた玉塚氏。果たして名実ともにプロ経営者の称号を確固たるものにできるか。
撮影■横溝敦