聖徳記念絵画館を訪れた水沢エレナさん(左)と山下裕二氏
山下:水沢さんも女優として共感する部分があるのでは?
水沢:女優の仕事は求められて成立すると思うので、そこに応えられることが幸せであり、自分の満足感でもあります。でも、欲をいえば毎回違う役をやりたいという葛藤もあります。
山下:ここに集まった画家たちにも、色々な葛藤があったと思います。名誉な仕事ですが、画家としての自己のプライドもある。
例えば“美人画の名手”と謳われた鏑木清方が描いた『初雁の御歌』。皇后が巡幸中の天皇を偲んで歌を詠んだという史実に基づいていますが、説明要素が一切ありません。
水沢:純粋にきれいな絵ですね。時代劇の一場面のような『大政奉還』など、歴史を説明する他の絵より美しさが際立っています。
山下:自分は市井の画家であるという強い自負があったのでしょう。日本画の中でも異質です。でも、異質という点では川村清雄の作品が上かもしれません。
日清戦争の戦利品を皇居内の『振天府』へ運ぶ横に白馬に乗った王子が天空を駆ける光景を描くところなど、ある種、異様な静物画です。オリジナリティに溢れ、絵として断然秀でています。