本当の意味で反省して「多様な言論を大切にする」ならば、以降、紙面にいわゆる朝日文化人的でない人物を登場させるべきだが、現実は異なる。
朝日は昔こそ多様な言論を載せていたが、今は締めつけが厳しく、例えば百田尚樹らは事実上排除されている。どんなに著作がベストセラーになっても、登場することはほとんどない。
私も2013年の参院選前にめずらしく朝日の取材を受けたが、「私は改憲派です」と発言すると記者の様子がおかしくなり、結局その部分は記事にならなかった。
自社に都合の悪い異論を排除し、多様な議論を拒むのはファシズムだ。現在の朝日はわずか10万人レベルの“朝日的知識人”を相手に記事を作っており、残り1億3000万人の大衆と乖離している。
これは、些細な誤りを訂正しておわびすることより、よほど重大かつ深刻な問題である。
【PROFILE】こやの・あつし/1962年生まれ。作家、比較文学者、学術博士(東京大学)。著書に『芥川賞の偏差値』(二見書房)など。『聖母のいない国』(河出文庫)でサントリー学芸賞。
※SAPIO2017年6月号