宇都宮市内の掲示板に貼られているLRTをPRするポスター。市内のLRT機運を高めている
「市ではJR宇都宮駅から市の東端にあるテクノポリスセンターまでの約15キロメートルまでを優先整備区間と位置づけ、2019年の開業に向けて急ピッチで作業を進めています。また、同計画は単にLRTを整備するのではなく、市全体の公共交通を再構築する意味もあります。ベルモール前(仮称)や清原管理センター前(仮称)といった電停では、バスの乗り継ぎがスムーズにできるトランジットセンター化することが決まっています。トランジットセンターが設置されることにより、宇都宮郊外からバスに乗って市中心部まで来ることができるようになり、市中心部からはLRTで移動することができるようになります。トランジットセンターの設置でLRTと交通アクセスは向上することになります。LRTの整備は、沿線住民だけではなく市全体にメリットがある計画なのです」(同)
2019年までに開業を目指す宇都宮市だが、そこで計画は完結しない。早くもその後も見据えて動き始めている。宇都宮市の繁華街は、JR宇都宮駅の西から東武宇都宮駅の間にある。このエリアには1日約2000本ものバスが運行されており、こちらも慢性的な渋滞が問題になっている。
そのため、2019年に駅東側のLRTを開業させた後は、宇都宮駅を横断して駅西側にもLRTを走らせる計画が進められている。
「駅西側の計画はLRTがどこを走るのかといったルートも決定していない段階で、まだ調査中です。また、JR宇都宮駅を挟んで東西にLRTを建設することになるのですが、東西のLRTをつなげるには宇都宮駅を高架で越えなければなりません。宇都宮駅は地上に在来線、3階に東北新幹線が走る構造になっているので、2階部分にLRTを通すことを想定しています」(同)
宇都宮駅の2階フロアを行き来するLRT構想は、宇都宮市だけで決められる話ではない。JR東日本とも協議が必要になる。そのため、駅西側のLRT構想が実現するには、まだ時間がかかるだろう。その間にも、宇都宮市は次なる手を模索中だ。担当者は、まだ漠然とした夢のような話と断ったうえで、こんな将来ビジョンを描く。
「LRTの軌間は1067ミリメートルに決めたのですが、これはLRTをいずれは1067ミリメートル軌間の東武やJRにも乗り入れできるようにとの考えからです。JRとも東武とも、そうした話し合いはまだしていませんが、今から軌間を揃えておかないと今後の対応ができなくなります。そうした将来的なことも含めて、宇都宮のLRT計画は綿密に進められてきたのです」
フランスのストラスブールでは、かつて路面電車が市民の足として大活躍していた。自動車の普及とともに衰退し、1960年に全廃された。ところが、1994年に改めて路面電車を復活させたことで、モータリゼーションによって空洞化していた中心市街地に郊外から人を集め活気を取り戻している。路面電車の復活による街の活性化は、世界各国から注目された。もちろん宇都宮市も参考にしている。
宇都宮市に触発されるように、全国各地の市町村でもLRTの検討が始まっている。昭和の遺物として次々と廃止された路面電車の巻き返しが始まろうとしている。