そんな中の佐藤浩市の千利休なのである。千利休といえば、信長、秀吉の茶頭として仕えた天下一の文化人。しかし、秀吉の命令により切腹することに…。
というわけで、これまでにも大河ドラマでは『黄金の日日』の鶴田浩二、『秀吉』の仲代達矢、『江~姫たちの戦国』の石坂浩二、『軍師官兵衛』の伊武雅刀、近年では『真田丸』の桂文枝、映画では1989年の『利休』で佐藤浩市の父三國連太郎、『利休にたずねよ』の市川海老蔵などが演じてきた。
利休俳優たちに共通するのは、「眼力」だ。茶道具はじめ、「美」を見極める眼力と、俳優としてカメラ目線の眼力の強さ。海老蔵の「美はわたくしが決めること」というセリフの場面など、眼力がありすぎて、見つめられた茶碗がパリンと割れるんじゃないかと心配になるくらいだった。
もちろん、佐藤浩市にもすごい眼力がある。しかし、それはギラギラと突撃していく「動」の眼力だったはず。『のぼうの城』では、馬で駆けまわり、刀を持って戦う武将だった。今回、「のぼう」と同じく萬斎とコンビだが、利休浩市は荒々しさを封印。別人のごとく穏やかさ「静」で現れるのだ。
役作りのため、利休浩市は、白髪交じりの頭に茶人の被り物をし、眉毛も下げ気味に。いつもいからせている肩もすとんと落としたなで肩で、しずしずと歩く。狭い茶室では、体を小さくし、ゆっくりと動く。もちろんギャグもなし。お茶のお点前も見事にこなしたと評判だ。
衝撃だったのは、怒った秀吉に頭を踏んづけられる場面。これまでだったら、ここで大暴れしてもおかしくない(というより、踏んづけてる側だよね、いつもなら?)が、ぐっと我慢してるよ…!! 何か違う境地に達したのか。利休浩市の茶の味も気になるが、俳優としての今後もおおいに気になる。