積み重ねてきたものをゼロにする。これは簡単な決断ではない。だが仕事を絶つと、今まで見えなかったものに気づき始めたのだという。それは新鮮な体験だった。何でもやれる。さあ何をしよう。そう思っていたところに、ある話が舞い込んだ。
「中国の上海音楽学院から教授にならないかという話が来たんです。『天命ってこういうことなんだな』と思いました。空っぽにしたから天が進むべき道を教えてくれたんだな、と。もしそれまで通りの活動をしていたら、断わらざるを得なかったでしょう」
●たにむら・しんじ/1948年生まれ、大阪府出身。1972年3月に堀内孝雄と2人のアリスとして「走っておいで恋人よ」でレコードデビューし、5月に矢沢透を加えて3人で活動開始。1975年の「今はもうだれも」を皮切りに「冬の稲妻」「チャンピオン」などヒットを連発して一時代を築く。一方、楽曲提供やソロ活動も行ない、1980年に名曲「昴」が大ヒット。1981年のアリスの活動停止後は、ソロでシングル、アルバムをコンスタントに発表し、国内外でコンサート活動を行なう。今年4月にCD3枚組のオールタイムベスト盤『STANDARD~呼吸(いき)~』を発売、5/13にスタートした全国ツアー「谷村新司 45th CONCERT TOUR 2017 STANDARD」を実施中。
撮影■藤岡雅樹、取材・文■角山祥道
※週刊ポスト2017年6月16日号