◆「毎日食べられる味」を
ベストな状態の食材を用意することに力を尽くし、その上で調理場の鉄板の上でも決して努力を怠らない──想夫恋が目指すのは「毎日食べられる味」だという。なるほど、確かにスパイスは主張しすぎないし、ソースの味も濃くはなく、濃厚な味付けの最近のやきそばに比すると割とあっさりしている。
しかしなぜだろう、しっかり印象に残る。これはすでにやきそばという範疇にないのかも知れない。角弘起・社長は「これはやきそばというより、『想夫恋焼』です」と力説した。
九州で生まれ育った私にとって、想夫恋のやきそばは郷愁の味でもある。思い出は、時に美化される。しかし、この味はノスタルジーと共に訪れても裏切らない。これからも受け継がれていくだろうこの一皿はまさにご当地の味であり、いつまでも熱くあり続ける。
取材・文■梶原由景:LOWERCASE代表。元BEAMS・クリエイティブディレクター。ファッション業界きっての食通として知られる。グルメ情報満載のブログはファン多数。J:COMの人気番組『どやメシ紀行』をプロデュースする。著書に『TRANSIT TOKYOごはん』など。
撮影■松隈直樹
※週刊ポスト2017年6月16日号