片山:安倍政権を支えるのは、愛国者を自任する人たちです。本来の保守なら安倍政権に激怒してしかるべきなのに「安倍首相は慰安婦問題を前進させている」と語る人までいるのだから驚きです。安倍政権の歴史観は、第一次世界大戦後の妥協的な国際協調主義と軌を一にしているようにも見えます。保守でもなんでもない。むしろリベラルで、なおかつ、国家としての自尊心、歴史に対する敬意が乏しいようにも見えます。
佐藤:一昨年(平成27年)夏の安倍談話もそうでした。平成7年の村山談話では「遠くない過去の一時期」に国策を誤ったとあえて歴史の分節を曖昧にした。一方の安倍談話は「満州事変」で進むべき道を誤ったと明確にした。では、「満洲経営」を主導した岸信介の責任をどう考えるのか。ご存じの通り、安倍首相は祖父の岸信介を尊敬していると常々語っています。
安倍談話は、これまでの自分の考えが間違っていたと捉えることもできる。政治家としての信念を問われかねない発言でした。
片山:深く考えないで話しただけな気もしますね。
佐藤:確かに文章の意味が分からずに読み上げた可能性はあります。とすると首相としての知性の水準を問われる。もう1つは、公明党や有識者向けに自分の考えとは別の発言を行ったとも考えられる。ただそれでは発話主体の誠実性を問われる。いずれにしても問題です。しかも悔い改めるという意味の“repentance”を使っているから、村山談話よりも踏み込んで反省を示したと受け止めることもできます。