競馬は陸上競技のようにタイムを出すことが目的ではありません。最終的に走る距離は同じ。どこをどういうペースで走るか。各馬の思惑が、独特の「展開」を作り出します。展開を左右するのは逃げ馬です。
ダービーではスタートして、2枠3番のマイスタイル(横山典騎手)が、その名のとおり主導権を奪った。しかし2400メートルをグイグイと逃げるわけではなく、むしろペースを落として前々で競馬をしたい。他の馬も折り合いを重視しつつ、マイスタイルのペースに合わせる。そこで超スローペースの展開ができあがった。
1000メートル通過が1分3秒2! すると向こう正面で後方5番手にいたレイデオロ(C・ルメール騎手)が突然スピードを上げました。すごい勢いで上がったから、他の鞍上は「これでペースが速くなるぞ。焦りは禁物だ」と思ったはず。「我慢できなくなったか」とほくそ笑んだ騎手もいたかもしれません。モニターを見ていた私も「掛かったから、仕方なく上がったのかな」と思ったぐらいです。
そういうわけで、他の馬は動かなかった。いや、動けなかった。しかしレイデオロはマイスタイルを抜かずに2番手に付け、またピタリと折り合った。普通あの勢いで上がっていくと、一気に先頭まで出て行ってしまうものです。デビューから乗っているルメール騎手には、再び折り合いを付けられる自信があったのでしょう。そして、藤沢和雄厩舎ではそういう調教をしていたのだと思います。