レース後、他の馬の調教師が「なんであのとき一緒に動かなかったんだ」と怒っていたそうです。タラレバの話は無意味ですが、あそこでルメールに追随する馬がいたら、また展開は変わっていたはずでしょう。
ルメールの判断には舌を巻きます。
マイスタイル(4着)の戦略はピタリ。もっとも短い距離を自分のペースで走り、粘り込みました。ルメールは逃げ馬の意図を見抜き、おそらく考える暇もなく動いたのでしょう。そこで2番手に付けたのは、想定内なのか、他の追随がないと見るや瞬時に決めたのか―凡人にはうかがい知れない天才の感性が存分に発揮されたレースでした。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。
※週刊ポスト2017年7月7日号