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辻村深月さん 「立派な大人」なんていないとわかった

『かがみの孤城』を上梓した辻村深月さん

【著者に訊け】辻村深月氏/『かがみの孤城』/ポプラ社/1944円

 久々の長篇ミステリーとあって読者の反響も熱い。7人の中学生が、それぞれの部屋の鏡を通って謎めいた城に集められるという、ファンタジー的な設定。しかし、ラストには大人も驚愕し、涙する展開が待っている。

「デビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』みたいな作品はもう書かないんですかとずっと聞かれてきて、自分でも、また、10代の子のミステリーが書きたいなと思っていました。けれど、その時と大きく違うのは、自分自身が大人になっていること。主人公は中学生ですが、大人の読者にとっても“かつてのあなた”のこととして読めるものを目指しました」

 主人公のこころは、同級生の美織たちにされたことが原因で学校に行けなくなっている。小説の中で、辻村さんはほとんど「いじめ」という言葉を使わない。

「『いじめ』や『不登校』という言葉でくくられた瞬間に、子どもの側に拒絶反応が起きると思うんです。こころがされたことがどれだけ怖くて、決定的だったか。受けた傷は一人一人違うはずなんです」

 城に集められたこころたちは、隠された鍵を見つければ一つだけ願いが叶う、と狼の面をつけた少女から言われる。こころのひそかな願いは「美織がいなくなってほしい」というものだった。

 鏡の内と外だけでなく、こころから見える世界と、美織や、担任の先生が見ている世界もまた、違うものとして描かれている。

「どれが正解ということでもないんですよね。デビューしたての頃なら大人を仮想敵に見立てるのも許されたけど、自分が大人になると、『立派な大人』なんていない、みんなそれぞれの役割を務めているだけだとわかりました。理解し合えない人というのはいるんだから、そこで苦しまなくていい、という書き方になりましたね」

 本のために話を聞いたスクールカウンセラーの、「カウンセラーの仕事は風のようにあってほしい」という言葉が印象に残ったという。

「気がつくとつらい時期が終わっていた、と思われるのがいちばんいいそうです。こころたちの城での記憶もそうなるかもしれないし、この本も、そんなふうに読んでもらえたらうれしいです」

取材・文/佐久間文子 撮影/黒石あみ

※女性セブン2017年7月20日号

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