あの一戦にいどもうとしたアリから目をそむけて、アリを論じるのは、話がかたよっている。アリにそくしてアリ語りをすすめるのなら、対猪木戦への目くばりははずせないはずである。そんな私などの想いにこたえてくれる本が、ようやく刊行され、日本語にも翻訳された。
よく知らないアメリカ人の名が、カタカナでつぎつぎにでてくるところは、読みづらい。それでも、この本には、いろいろなことをおしえられた。WWEの全米制圧が、猪木・アリ戦を契機としていたことなどには、新鮮な印象をいだいている。猪木がイスラム世界へあゆみよった背景にアリがいたろうことも、なるほどと思わされた。
著者のジョシュ・グロスは、総合格闘技を取材してきたジャーナリスト。その“総合”が、猪木・アリ戦にさかのぼれるとの想いも、この本をささえている。
※週刊ポスト2017年7月21・28日号