安倍一強のもとでは派閥のチェック機能が働かない。昔の自民党には“振り子の原理”があり、「コンピューター付きブルドーザーの田中角栄氏」から「クリーンな三木武夫氏」、「経済財政政策通の福田赳夫氏」から「リベラルな大平正芳氏」へと疑似的な政権交代が行われた。しかし森喜朗氏以降、右寄りな清和会政権が続いて「振り子の原理」が働かなくなってしまった。
安倍首相と同じ「右派」の中曽根康弘元首相には、本人と価値観が異なる後藤田正晴氏や梶山静六氏を登用する器量があった。しかし、安倍首相の周りにいる人はお友達やイエスマンばかりで「大学の同好会政治」のようになってしまった。国の将来を冷静に直言する側近が殆どいないのだ。
マスコミも問題点を正確に指摘しない。野田毅・前党税調会長は消費税率引き上げ時の軽減税率導入に反対し税調会長を更迭された。しかし、軽減税率の適用を主張する新聞社はこの件をどこまで掘り下げて報じただろうか。また、高市早苗総務相が「政治的な公平性に欠ける放送を繰り返したテレビ局は電波停止の可能性がある」と述べると、萎縮したマスコミが自主規制を始めて組織防衛に入ってしまった。
●むらかみ・せいいちろう/1952年愛媛県生まれ。東京大学法学部卒業。1986年衆議院議員選挙初当選後、10回連続当選。大蔵政務次官、衆議院大蔵常任委員長、初代財務副大臣、行政・規制改革、地域再生、特区、産業再生機構担当大臣、衆議院政治倫理審査会会長など数々の要職を歴任。
■取材・構成/池田道大(ジャーナリスト)
※SAPIO2017年9月号