現在、落語界で大御所と呼ばれる人たちのほとんどは古典をメインにしている。が、文枝は創作落語にこだわる。近年は、年12、13作のペースでつくり、手がけた創作落語は計270超にものぼる。新作を武器にここまでの地位を築いた噺家は、歴史上でも、そうはいまい。理由は、簡単だ。難しいからだ。
「あえてしんどいことに挑戦してるというか、なんでこんなしんどいことやってるのかなあと思いますけど。それは、古典落語をやっていたほうがずっと楽です。前々からあるもんで、何百年の間に、何百人という噺家が、時代に合うギャグを入れてね。昨日今日、噺家になったもんが、そのままやってもウケる。でも創作落語は古典落語のように積み重ねてきたもんがないわけですから。どうしても奥行みたいなものが出てこないところがある。割と、軽く見られがちだったと思いますね」
割と、というのは控えめに言っただけで、実際は「かなり」だったはずだ。
●1943年、大阪府生まれ。関西大学在学中に桂小文枝(故・五代目桂文枝)に入門。深夜ラジオで若者の人気を得て、『新婚さんいらっしゃい!』などテレビ番組でお茶の間に定着。1981年、創作落語を発表するグループ・落語現在派を旗揚げ。2006年紫綬褒章、2007年菊池寛賞、2015年旭日小綬章。
■撮影/林景沢
※SAPIO2017年9月号